宇宙

2024.06.22 18:00

地球ではオーロラ、火星で5月の特大「太陽嵐」はどう観測されたか

NASAの火星探査機「MAVEN」が、紫外線計測機器を用いて5月に測定したデータをもとに作成された画像。紫色の部分は、火星の夜側(nightside:太陽から見て裏側)に発生したオーロラを示している(NASA/University of Colorado/LASP)

NASAの火星探査機「MAVEN」が、紫外線計測機器を用いて5月に測定したデータをもとに作成された画像。紫色の部分は、火星の夜側(nightside:太陽から見て裏側)に発生したオーロラを示している(NASA/University of Colorado/LASP)

米航空宇宙局(NASA)の火星探査車キュリオシティは2024年5月20日、ゲールクレーターの先にカメラを向けた際に、驚くような現象を捉えた。火星に吹き付けた、巨大な太陽嵐の痕跡だ。

NASAは、6月10日付の声明でこう述べている。「科学にとって宝の山となるこの大発見は、このような事象が深宇宙でどのように展開されるのかを研究する、これまでにない機会をもたらすものだ。さらに火星を初めて訪れた宇宙飛行士が、どれだけの量の放射線被曝を体験するのか、その程度についても知見を与えてくれた」

キュリオシティは時折、搭載されたカメラを使って、ゲールクレーターで起きる塵旋風(ダストデビル)や風の動きを観測している。2024年5月に、太陽からX12クラスのフレアが火星の方角に向けて放出された際に、キュリオシティはたまたまこの観測を行なっていた。

Xクラスとは、最も強力なタイプの太陽フレアを指す分類カテゴリーで、X12は並外れて強いフレアを意味する。NASAは説明資料で、「最大級を指すXクラスのフレアは、太陽系内では群を抜いて大規模な爆発であり、この上なく観測しがいのある現象だ」と述べている。

キュリオシティは今回、このフレアが火星におよぼした爪あとを捉えた。画像は、処理を経ているために粒度が粗くなっているが、筋のような模様や、雪を思わせる微小片のようなものが大量に記録されている。

画像に写っている微小片は、太陽嵐から放たれた荷電粒子が、NASAの火星探査車「キュリオシティ」の走行に使われるカメラのうち1台に当たったことによって生じたものだ。NASA/JPL-Caltech

画像に写っている微小片は、太陽嵐から放たれた荷電粒子が、NASAの火星探査車「キュリオシティ」の走行に使われるカメラのうち1台に当たったことによって生じたものだ(NASA/JPL-Caltech)

これらの筋や微小片のような模様は、火星表面を実際に舞う粉塵ではない。これらは、太陽嵐から生まれたアーティファクト(画像中に生じた実在しないノイズ)だ。

キュリオシティの担当チームは、X(旧ツイッター)で以下のように説明した(ここでいう「私」とはキュリオシティのことだ)。「最近、私が定期的に行なっている粉塵観測が、大きな太陽現象が火星を襲った時期とたまたま一致する機会があった。そして、荷電粒子が私のカメラに当たり、画像にゆがみを生じさせた。これは、2012年に火星に降り立って以来、私が検知したなかでは最も大きな磁気嵐だった」

NASAが計算したところ、仮にキュリオシティの側に宇宙飛行士が立っていたとしたら、この人物は8100マイクログレイの放射線を浴びたことがわかった。これは、胸部レントゲン撮影を30回受けるのに相当する量だ。幸い、致死量ではない。

太陽嵐から飛んできた荷電粒子によって生じた筋や微小片のような模様は、5月20日にキュリオシティのカメラで捉えられた画像に発生したものだ。NASA/JPL-Caltech

太陽嵐から飛んできた荷電粒子によって生じた筋や微小片のような模様は、5月20日にキュリオシティのカメラで捉えられた画像に発生したものだ(NASA/JPL-Caltech)

この数値は、キュリオシティに搭載された「RAD(Radiation Assessment Detector:放射線評価検出器)」の測定データからはじき出されたものだ。NASAは、将来的に火星に人類を送り込む計画を進めているが、そのためには、宇宙飛行士を放射線から守る方法を考案する必要がある。太陽嵐の影響をさえぎる、シェルターとなる場所を探すことは、この目的の達成に役立つ可能性がある。
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翻訳=長谷 睦/ガリレオ

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