宇宙

2024.06.21 18:00

観測史上初、大質量ブラックホールの「覚醒」をリアルタイムで追跡

おとめ座の方向約3億光年の距離にある銀河「SDSS1335+0728」を描いた想像図(ESO/M. Kornmesser)

おとめ座の方向約3億光年の距離にある銀河「SDSS1335+0728」を描いた想像図(ESO/M. Kornmesser)

観測史上初となる、遠方の銀河の中心にある大質量ブラックホールの覚醒を、科学者らは圧倒されて眺めている。

2019年に謎の増光を示した銀河の5年にわたる調査により、銀河において未だかつて確認されたことのない変化が観測された。この変化は、中心にある大質量ブラックホールが周囲のガスを吸い込むことにより、銀河を明るく輝かせているせいだと考えられている。

増光現象

大質量ブラックホールは、天の川銀河(銀河系)を含む大半の銀河の中心に存在する。だが、通常は「休眠」状態で、直接的に見ることはできない。今回の銀河「SDSS1335+0728」は現在、活動銀河核を持つ銀河として分類されている。活動銀河核は、大質量ブラックホールがエネルギー源となっている明るくコンパクトな領域のことだ。超新星(恒星の爆発)や、恒星がブラックホールに引き裂かれる現象などの、銀河が突然増光するその他の原因は排除された。SDSS1335+0728が明るさを維持している期間が長すぎるからだ。2019年12月に米カリフォルニア州パロマー天文台のツビッキートランジェント天体探査装置(ZTF)で増光が観測されてから5年近くが経過しても、いまだに明るさを増している。

リアルタイム

活動銀河核の突然の増光をリアルタイムで観測するのは、天文学者にとって初めての機会だ。天文学誌Astronomy & Astrophysicsに掲載予定の今回の研究をまとめた論文の筆頭執筆者で、ドイツに本部を置く欧州南天天文台(ESO)の天文学者のポーラ・サンチェス・サエスは「何年にもわたって観測している遠方の銀河が、ずっと静かで休止状態と思われていたと想像してみよう」と話す。「それ(の中心核)が突然、これまでに見てきたような通常の現象とは異なる、劇的な明るさの変化を見せ始めるのだ」

銀河「SDSS1335+0728」の中心にある大質量ブラックホールの周囲にガスと塵の円盤が形成される過程の2つの段階(上と下)を示した想像図(ESO/M. Kornmesser)

銀河「SDSS1335+0728」の中心にある大質量ブラックホールの周囲にガスと塵の円盤が形成される過程の2つの段階(上と下)を示した想像図(ESO/M. Kornmesser)

他に類を見ない現象

研究チームによると、SDSS1335+0728の増光は可視光域だけでなく、今や紫外線から可視光、赤外線の波長域にまで及んでいるという。2月には、X線も放射し始めた。このような現象が観測されるのは、天文学史上初めてのことだ。論文の共同執筆者で、南米チリの宇宙物理学ミレニアム研究所(MAS)とバルパライソ大学に所属するロレーナ・エルナンデス・ガルシアは「この現象を説明するための最も確からしい選択肢は、銀河(の中心核)が活動性を見せ始めている様子を観測しているというものだ」と説明している。「そうだとしたら、大質量ブラックホールの活性化をリアルタイムで観測するのはこれが初めてになるだろう」

銀河系

SDSS1335+0728で現在起きていることは、銀河系でも同じ現象が起こり得ることを示唆している。すなわち、銀河系中心に位置する超大質量ブラックホール「いて座A*(Sgr A*)」も覚醒するかもしれないのだ。

SDSS1335+0728は、おとめ座の方向約3億光年の距離にある銀河で、2019年から、チリのアタカマ砂漠にあるESOの巨大望遠鏡VLTとSOAR望遠鏡、米ハワイのW・M・ケック天文台、NASAの2基の宇宙望遠鏡のニール・ゲーレルス・スウィフト衛星とチャンドラX線観測衛星などを用いた調査が行われている。

forbes.com 原文

翻訳=河原稔

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