「そちらにとってはいかがでしょうか?」を深読み
国際市場における営業活動を進める中、取引に興味があるという海外企業の担当者Mr.Bから沼野氏に打診があった。話が具体的な内容に進むことになり、秘密保持契約を結ぶ段階となったため、沼野氏はMr.Bに書類を送信したが、案の定、Mr.Bからから特徴的な一文に対して次のような内容のメールがあった。
【メール内容要点】
・秘密保持契約の内容を確認しました。
・弊社の担当弁護士とも確認を取りました。
・一文が通常の文言とは異なる印象を受けました。そちらにとってはいかがでしょうか?
ハイコンテキスト文化で相手の行間を読み取ろうとすると、次のような「主張」を読み取るのではないだろうか。
・Mr.Bはこの特徴的な文言を削除しろ、と言っているのではないか。
読者諸氏も同じように読み取っただろうか。もしこのように読み取ると、返事としてはおそらく、次のようになる。
【返信メール内容要点】
・残念ながらこの文言は削除することはできません。
・なぜならば、弊社Z社では次のような事例があったからです(長文で理由を展開)。
・おわかりいただきたい。
秘密保持契約にかかわらず、同じような返答をせざるを得なかった読者が、中にはいるのではないだろうか。
しかしである。Mr.Bはローコンテキスト文化でのコミュニケーション作法に従ってメールを作っており、「何かを読み取らせよう」という意識はない。Mr.Bは自分の考えを文字通り伝えるために言葉を選び沼野氏に伝えたいことを送信してきただけである。
そしてMr.Bのメッセージを要約すれば、「そちらにとっては、この一文は通常のものなのでしょうか?」なのである。
このメッセージに対し、ローコンテキストで文化では、ハイコンテキスト文化のように相手の行間を読み取った返事をするのではなく、書かれていることに返答する。それがコミュニケーション作法となるため、次のような返答でいい。
【返信メール内容要点】
・Mr.Bさんが感じた通り、日本でも一般的なものではないんですよね。
・実は以前特殊な事例があって、弊社もその文言を入れなければならずで。(一文で説明)
・取引に支障がないといいのですが。
どうだろうか? 返事の印象が大きく変わるのではないだろうか?
このやり取りを見比べてみよう。
Mr.B:そちらにとっては、この一文は通常のものなのでしょうか?
桑野氏:(ハイコンテキスト流)残念ながらこの文言は削除することはできません。
桑野氏:(ローコンテキスト流)Mr.Bさんが感じた通り、日本でも一般的なものではないんですよね。
日本の優秀なビジネスパーソンは空気を読むことに長けていることが多く、行間に対する理解力もある。それはコミュニケーションのやり取りの回数を減らすことにも繋がるので、行間を読み取った回答や返事はスマートな印象にもなるだろう。
しかし、この「行間を読み取ろうとする」技術が、ローコンテキスト文化ではコミュニケーションを難しくさせる要因になってしまうのである。