教育

2024.07.04 14:15

日本人の残念なビジネス英語その3:「行間読んで失敗」の沼野氏

reorange/GettyImage

このケースを見ていくと、まず、1.沼野氏はMr.Bの問いに対し回答していない。これが1つ目のズレである。次に、2. Mr.Bは「文言を削除して。」とは言っておらず、沼野氏がMr.Bさんの言いたいことを決めつけた印象を与えてしまう。これは2つ目のズレである。さらに、3. Mr.Bさんは自分が言ってもいないことを決めつけられた上、突然「文言の削除は絶対しないぞ!」というメッセージを受け取ってしまい次の出方がよくわからなくなる。これが3つ目のズレとなる。
advertisement

このようなズレを生じさせてしまうのは、英語力ではない。そもそも沼野氏は、秘密保持契約に至るまでのプロセスを英語で行っているのだから、英語のスキルは決して低くはない。また、海外販売部に所属するような方は国際的な感覚も持っているだろう。

しかしこのような人たちであっても、コミュニケーション文化の違いを理解せず、「行間を読み取る努力」をローコンテキスト文化でもしてしまうことで、コミュニケーションのズレを生んでしまうのだ。

筆者は、秘密保持契約だけでなく、売買契約や注文の変更などでも同じように相手のメールの行間を読み取った上で返事した結果、コミュニケーションのズレを生じさせてしまったケースを多数見てきた。
advertisement

日本人どうしですら「マルハラ」

昨今は日本のみならず国際市場においても、コミュニケーション手段にEメールが大きな割合を占めるようになった。

先日、LINEなどのテキストメッセージの文を「。」で終わらせることで、相手に怒っている印象を与えてしまう(「マルハラ」と感じる)という記事を読んだ。「。」という記号でさえ、人によって読み取り方が異なってしまうのだ。

このことも、文字ベースのコミュニケーションの行間の広さを表していると同時に、同じコミュニケーション文化を持つ人同士でも、文字情報が持つ行間の受け止め方が異なることを表している。コミュニケーション文化が異なる人同士で行われる国際コミュニケーションにおいては、「行間の受け止め方の違い」はさらに顕著になるのだ。

今回例に挙げた桑野氏、柳田氏、沼野氏の3者は、コミュニケーションで生じる課題の背後に数千万円から数億円、場合によっては数十億円の取引を背負っていた。このような諸氏にとって、国際コミュニケーションが日本の取引相手と同じように進まないことはけっして小さな課題ではない。

むろんローコンテキスト文化だからといって、まったく行間を読まないわけではない。関係が深まれば当然、言わなくても通じ合えることは増す。しかし関係を深めるプロセスが、日本のハイコンテキスト文化とローコンテキスト文化では異なることを理解しておくと、コミュニケーションの円滑化のヒントになるはずだ。

英語力があり、交渉技術もあるにもかかわらず国際コミュニケーションが思うようにいかないビジネスパーソン諸氏に、コミュニケーション文化の違いへの理解が課題克服へのきっかけとなれば幸いである。


参考>>日本人の残念なビジネス英語その1:桑野氏の「ハイコンテキストすぎた」納期設定

参考>> 日本人の残念なビジネス英語その3:「行間読んで失敗」の沼野氏


松樹悠太朗(まつき・ゆうたろう)◎1978年香港生まれ。国際交渉のコンサルティングを行うYouWorld 代表取締役。特徴的な技術は、日本語と英語の行間や作法の違いによるコミュニケーションのニュアンスを調整すること。特に国際交渉の軌道修正、効果的な英文Eメール、プレゼン資料の修正において成果を上げている。クライアントはスタートアップCEO、金融機関取締役、日系商社支社長、製薬関連企業代表、日本刃物ブランドなど。

文=松樹悠太朗 編集=石井節子

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事