クリエイター新時代の切り札「小さな思いつきを小さくかたちに」

僕自身も近年は「クリエイティブ&プロデュース」を意識して仕事をしています。僕が主宰するクリエイティブチーム「entaku」で企画した「いい人すぎるよ展」がその一例です。「集合写真で中腰の人」や「電話なのにお辞儀してる人」など、日常に潜む“いい人”を集めてイラストや文字などで展示する試みなのですが、「いい人すぎる人を展示する」というワンアイデアからプロジェクトを立ち上げて、23年末には「Z世代ヒットトレンドランキング」(サイバーエージェント調べ)に入るほど大きなブランドになりました。
 
初開催の23年6月にはチケットが即完売し、2日間で4200人が来場。その盛り上がりを見て即会場を予約し、10月に「いい人すぎるよ展+やだなー展 2nd Season」を開いたところ、16日間で2万5000人が来場しました。そして11月にはPARCOとの共同企画「いい人すぎるよ美術館+切ないすぎるよ博物館」が実現し、現在全国8都市を巡回しています。また、23年12月には書籍『いい人すぎるよ図鑑』(PHP研究所)も出版し、5刷の重版が決まっています。
 
SNSを起点に拡散していったこの企画は、はじめの「バズ」のチャンスを生かすかたちでプロジェクトを設計したことで成功しました。23年は盛り上がりが途切れないように次々と新しいニュースを投下しましたが、今後は、やりすぎるとコンテンツが摩耗してしまうので1年に一度の開催に限定していく予定です。
 
クリエイターが自分のアイデアをプロデュースしていくうえで重要なのが、「小さい思いつきを小さくかたちにすること」だと思っています。まずはリスクが少ないかたちで一度アイデアを世の中に出してみて、いい反応があったら長期プロジェクトにする方法です。アイデアは思いつくけれど、それをなかなか実行しない人も多いですよね。「飲み会で盛り上がった小さなアイデアを翌日に企画書にしているかどうか」がプロデューサーへの第一歩だと思います。
 
なお、Z世代以降に関しては、クリエイターはもはや目指す職業ではなくなっていると思います。小中学生のころからSNSを通して「こうやったら伸びる、こうやったら伸びない」といったマーケティングに触れて育ち、ほかの人のクリエイティブのマネをしながら、デザインや映像制作も自然と学んでいる。お小遣い稼ぎでなんとなくやっていたSNSが話題になって、それが本業になるという人も増えていきそうです。
 
だからこそ僕は、彼ら・彼女らから教えてもらいながら企画をつくっています。大人世代の役割は、やりたいことを実現するための最短距離を教えてあげ、道筋をつくってあげること。そうやって次世代にバトンをつないでいきたいですね。


明円 卓◎2014年より電通でCMプランナー、コピーライターとして活動。20年に電通を退職後kakeruを創業。広告制作のほかに「やだなー展」「いい人すぎるよ展」などの企画展を主宰するほか、飲食事業として「JANAI COFFEE」「友達がやってるカフェ/バー」なども手がける。

文=田中友梨

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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