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2024.06.14 12:45

ロールス・ロイスのピュアEV“SPECTRE”は、駆る喜びを味わえるドライバーズ・カー

ロールス・ロイス ブランド初の電気自動車「SPECTRE(スペクター)」を、Forbes JAPANコントリビューティング・エディターの青山鼓が試乗。新世代の「魔法の絨毯」で、東京の街を走った。



時を遡ること1900年、のちにロールス・ロイスを設立することになるチャールズ・スチュアート・ロールズは雑誌の記事で「電気自動車はまったく騒音がなく空気も汚さない。匂いも振動もない。定置式の充電ステーションが整備されれば、途方もなく便利なものになるだろう」と、電気自動車がある未来を予言したという。

ロールス・ロイス「SPECTRE(スペクター)」は、それから1世紀を経た2021年にテスト開始が公表され、2022年10月にはロールス・ロイス・モーター・カーズ史上初の電気自動車として世界に向けて発表された。

電気自動車のウルトラ・ラグジュアリー・スーパー・クーペ

SPECTREをめぐる会話では、とかくロールス・ロイス初の電気自動車ということが強調されがちだ。もちろん、2030年までにすべての製品を電動車にするという、ロールス・ロイスの未来を指し示す重要な意味を持つ存在であることは間違いない。

しかし重要なのは、このSPECTREは、「ロールス・ロイスらしいこと」をコアバリューとして開発されてきた点にある。最高の贅沢、上質の体験を知る顧客たちを満足させてきたロールス・ロイスが作った、「電気自動車におけるラグジュアリー」。それがSPECTREだ。

電気モーターにより瞬間的に発揮されるトルクや、エンジンや関連パーツからのノイズがなくなることによる静粛性、変速ショックのないリニアな加減速がもたらす快適性といった、電気自動車の強みはどのようなラグジュアリーな体験を作り出すことができるのだろうか。

ロールス・ロイスが「電気自動車のウルトラ・ラグジュアリー・スーパー・クーペ」と呼ぶ、このクルマを仔細にみていくことにしよう。

そんなSPECTREに実際に対面すると、やはり目に飛び込んでくるのは、ロールス・ロイスのシグネチャーである大きなグリルを強調したフロントだった。電気自動車で重視される1充電あたりの航続距離に大きく関係する空気抵抗も考慮してデザインされていながら、ロールス・ロイスのなかでもっともワイドにデザインされているという。そして車両全体のフォルムは、車両後端にかけてゆったりとしたプロポーションを描くファストバックスタイル。

これまでのロールス・ロイスが積んできた巨大なV12エンジンが、SPECTREでは大容量102kWhのリチウム・イオン・バッテリーへと置き換わる。バッテリー重量は約700kg。車体の総重量は2,890kgながら、モーターの出力はフロント190kW、リア360kWで最高出力は430kW。900Nmのトルクを発揮して、0-100km/h加速はなんと4.5秒。いったいどのような走りをするのだろう。

まずは都心を出発し、しばらく低速域でのストップアンドゴーを繰り返してみる。こういう書き方はインプレッションとしてはどうかと思うが「乗りやすい」ことに驚く。

発進にしても、停止にしても、とにかくスムースなのだ。とても2.9tのクルマを走らせているとは思えなかった。アクセルを踏めば、踏んだとおりにすっと動き出し、そして必要な分だけ加速してくれる。ブレーキを踏めば車重分大きくなる慣性を自然に感じながら、決して不快ではない減速とともに停止する。

多角的に進化した"魔法の絨毯"

気がつけば運転席ですっかりリラックスしていた。交差点の右左折もむしろ楽しく感じてしまうほど、SPECTREは意のままに減速し、ステアリングを操作したとおりにコーナリングし、そして加速する。

やはり、SPECTREも「魔法の絨毯」だった。それを実現する大きな要因が、もともとゴースト向けに開発されたプラナー・システムを進化させた、プラナー・サスペンション・システムだ。デジタル・エンジニアリングにより道路状況や天候状況、対地速度などさまざまな変数を超高速で処理し、サスペンションを適正に働かせる。

さらに、ボディ剛性を30%アップさせたことで車体のねじれがこれまでのモデルよりも減少しており、これもコントロールされた快適な乗り心地に貢献している。
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Text by Tsuzumi Aoyama

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