宇宙

2024.06.08 18:00

太陽系初期の理解を一変させるNASA「小惑星ベンヌ」の試料

古代の粘土質の泥

ベンヌの親天体の小惑星は、対流している巨大な泥玉で、数百万年にわたって流体を循環させ、原初の鉱物特性を完全に変えてしまったに違いないと、ローレッタは著書『小惑星ハンター』に記している。

NASAによると、ベンヌは約7億~20億年前に、はるかに大型の炭素質小惑星から分離した可能性が高いという。




低密度の天体

ローレッタによると、太陽系の内側にある小惑星の大半は、岩石質で高密度の地球接近天体だ。だが、ベンヌは、予想していたよりもはるかに多孔質で、はるかに低密度だ。

なぜ小惑星が、太陽系の生命を理解する上で重要なのだろうか。

地球史の全貌を把握しようとすると、約40億年前の時点で、岩石の記録が何も残っていない年代に行き着くと、ローレッタは指摘する。太陽系の鉱物や有機物や氷の形成を始まりまで遡って理解するには、小惑星に行く必要があると、ローレッタは説明する。小惑星は、太陽系の進化の最初期の状態を保持していると、ローレッタは続けた。

岩だらけの表面

ローレッタによると、ベンヌの表面は、望遠鏡の観測データの解析から予想された以上に、はるかにごつごつしていて岩だらけだった。砂質か礫質かもしれないと考えられていたが、大きな岩に覆われていたという。

驚異の試料

分析の結果、ベンヌのサンプルから発見されたリン酸塩は、土星の氷衛星に似た古代の海洋天体から水の蒸発によって得られたもののように見えると、ローレッタは述べている。また、有機物質の多様性には本当に心を躍らせていると、ローレッタは続けた。

リンが生命にとって不可欠なのはなぜか。

DNAの二重らせん構造を形成する2本のレールは、糖に結合したリン酸だと、ローレッタは説明する。すなわちリン酸は、DNAとRNAを作るのに不可欠なのだ。また、アデノシン三リン酸(ATP)と呼ばれるエネルギー運搬分子にとっても重要な構成成分だと、ローレッタは続ける。ATPのPは、リン酸の頭文字を表している。さらに、リン酸塩鉱物は、人間を含む動物の骨や歯の主成分だ。

質量の点から見て、リンは水素、炭素、酸素、窒素に次いで5番目に重要な生物元素(生物活動に不可欠な材料となる元素)だと、ローレッタは著書に記している。しかしながら、地球上の生物がどこでリンを獲得したのかは謎だという。


ローレッタの最新著書『小惑星ハンター』の表紙(The Asteroid Hunter/Grand Central Publishing)

ローレッタの最新著書『小惑星ハンター』の表紙(The Asteroid Hunter/Grand Central Publishing)

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翻訳=河原稔

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