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2024.06.12 09:00

売り上げを伸ばす200年超企業 英「ジョンストンズ」の伝統と革新

クリス・ガフニー|ジョンストンズ オブ エルガンCEO

世界最高峰のカシミヤとウールを扱うスコットランドのラグジュアリーブランド「ジョンストンズ オブ エルガン(以下、ジョンストンズ)」。1797年の創業以来ファミリービジネスを続け、原毛から最終製品に至るまで自社工場で一貫して生産を行う同社の売り上げが、前年比20%増と伸びている。
 
その立役者が、2011年に財務担当として同社に参画し、2021年にCEOに就任したクリス・ガフニーだ。「伝統と技術革新を結びつけることで、美しいプロダクトが生まれる」という持論に基づく着実な取り組みが実を結んでいる。日本での市場拡大を見据え、5年ぶりに来日したCEOに聞いた。

B-CorpとデジタルIDに対応

「伝統的なブランドが“古き良き”に重きを置いているというのは、ステレオタイプかもしれません。というのも、産業革命で我々はカシミヤの原料を初めて英国に持ち込み、カシミヤを織る機械を開発しました。それ以降、技術革新は常に原動力であり、時代の変遷に合わせてイノベーションを起こしてきたからこそ、200年以上も続けてこられたのです」

そう話すガフニーは、ジョンストンズの工場があるスコットランドの街で生まれ育った。会計士やMBAの資格をもち、長年財務の経験を重ねたのちに、故郷の製造業に舞い戻った。
 
ジョンストンズは昨年、公益性の高い企業に対する国際的な認証「B-Corp」を取得した。その認証を受けるには環境への配慮はもちろん、多様性や地域コミュニティの醸成、従業員やステークホルダーとの良好な関係性、ガバナンスなど、実に多くの評価基準を満たさなければならない。それを、わずか1年程度で取得できたのは、「ジョンストンズがもともとB-Corpの基準と親和性が高かったから」だとガフニー。

カシミヤやウールは天然繊維であるため、リサイクルもでき、捨ててしまっても生分解するサステナブルな素材だ。また、プラスチックやエネルギーの使用量を減らし、水を効率的に使う努力を惜しまず、環境フットプリントの削減に努めてきた。長年地域に根ざしてきた結果、1200人の従業員たちともファミリーのような絆で結ばれているほか、8年前からカシミヤの産地であるモンゴルの牧畜民育成プログラムなども行っている。
 
もう一つ先進的なのは、繊維から製品になるまでの過程を詳細に記録するバーチャル・パスポート「デジタル ID」を一部製品に搭載していることだ。

これは2021 年にチャールズ皇太子(当時)が招集した「Sustainable Markets Initiative(SMI)」のファッション・タスクフォース(世界のファッション、繊維、アパレル部門を持続可能な未来へ移行させるためのグループ)が提唱したシステムで、ブルネロ クチネリ、バーバリー、クロエなど多くの企業が参加している。その会議には時折、皇太子の姿もあったという。

「デジタルIDにより消費者は、店舗に並ぶまでの製品の流れや手入れの方法などを理解し、慎重に購入を検討することができます。人々は購入するものが持続可能な方法でつくられたものかを知る権利があり、我々も透明性をもってそれらを伝える責任がある。ファッションは特に環境負荷が高い産業なので、このような制度は重要です」
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文=國府田淳 編集=鈴木奈央

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年7月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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