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2024.06.12 09:00

売り上げを伸ばす200年超企業 英「ジョンストンズ」の伝統と革新


デジタルIDは、製品のタグに付いているQRコードから閲覧できる。

デジタルIDは、製品のタグに付いているQRコードから閲覧できる。繊維から製品になるまでの過程、手入れの方法、リペア、スタイリングに至るまで、幅広い情報を得ることが可能だ。

「またこの取り組みは、英王室の多大なる支援のもとで成り立っています。このような大規模なイニシアティブが実現できるのは、英王室の影響力あってのことでしょう」

ジョンストンズは1853年、ヴィクトリア女王に「スーパーバルモラルツイード」という品を納めて以来、英国女王賞を4回受賞し、2013年にはチャールズ皇太子より英国王室御用達許可証を受けるなど、英王室と親密な関係を築いている。

「英国王室御用達は名誉であるとともに、大きな責任を伴います。許可証を申請する際、従業員や地球のために正しい活動をしているかを明確化し、詳細な情報を提供する必要があります。ですから、会社は必然的に高い倫理性や透明性を担保することができるのです」

巨大ブランドになるつもりはない

大事なことではあるが、環境や従業員への配慮をすればするほど、コストは嵩むものだ。それは製品価格にも跳ね返りうる。「山羊1匹から150gしかとれないカシミヤを使い、紡績や染色など30以上の工程を経て製品になる。当然高額になりますが、大切なことはつくった製品を人々が丁寧に扱い、それが長持ちすることです」とガフニーは言う。実際、カシミヤやウールは合成繊維よりも転売されやすく、より長く着用されるという研究結果もある。

「人によっては、天然素材のウールやカシミヤ、伝統な柄は古くさいと感じるかもしれません。しかし、ヘリテージとモダンが融合し、ロゴなどの主張もないジョンストンズの製品は、流行に左右されることなく愛でることができます」
 
ここ数年、高級品市場ではシンプルで上質な“クワイエット・ラグジュアリー(静かな贅沢)”がトレンドとなっているが、ガフニーはジョンストンズをさらに控えめな“サイレント・ラグジュアリー”であると表現する。
 
毎シーズン新たな購買を促すハイブランドとは異なり、長く着用されることに念頭をおいているため、生産量も限られてくる。ガフニーは「環境を犠牲にするほどに生産し、世界に何百もの店舗を構える巨大ブランドになるつもりはない」と適切な成長を示唆する。
 
環境や持続可能性に目を向けながら、世界最高峰の品質を保ち、それに共感する顧客や従業員とのコミュニティを育んでいくことこそ、数百年先に受け継がれるブランドとなる最良の道なのであろう。


クリス・ガフニー◎ジョンストンズ オブ エルガンCEO。スコットランド北部のホーウィックで生まれ、エルガンで育った。経済学の学位、公認管理会計士、MBAを取得。2011年、生まれ故郷の企業であるジョンストンズにファイナンス ディレクターとして入社。2021年に最高経営責任者に就任。歴史とSFをよく読み、ラグビーとゴルフを嗜む。

お詫びと訂正:「Forbes JAPAN」7月号(5月24日発売)に掲載の本記事において、売り上げの成長率の記載が間違っておりました。前年比26%ではなく、正しくは前年比20%となります。お詫びして訂正いたします。

文=國府田淳 編集=鈴木奈央

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年7月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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