アート

2024.06.22 15:00

アートで世界の「声」を届ける|今月のアートな数字

フール・アル・カシミ◎UAE出身。シャルジャ美術財団理事長兼ディレクター、国際ビエンナーレ協会会長

歴史や神話をモチーフにして作品をつくるレバノンの作家、ダラ・ナセルの《Adonis River》。アドニスの洞窟で絵を描き、その地の川や岩を用いてで洗った布には、土地の記憶が封じ込められている。

歴史や神話をモチーフにして作品をつくるレバノンの作家、ダラ・ナセルの《Adonis River》。アドニスの洞窟で絵を描き、その地の川や岩を用いてで洗った布には、土地の記憶が封じ込められている。


カシミ自身と日本とのかかわりは深い。20年ほど前に日本語の勉強に没頭して以来、年2、3回のペースで来日しており「前回が55回目だった」という。「電車で各地へ行き、さまざまな展覧会やデザイン展、演劇などを観て回りました」。
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2013年のシャルジャ・ビエンナーレでは長谷川祐子(現・金沢21世紀美術館館長)をキュレーターとして招き、日本のアーティストとも交流をもってきた。「あいち2025」においては、「招聘できる人に限らずできるだけ多くのアーティストと出会い、私自身の学びの機会とし、今後かかわる他国のプロジェクトにもつなげていきたい」と意気込む。

テーマに掲げる「灰と薔薇のあいまに」は、シリアの詩人アドニスの詩の一説で、カシミが長きにわたってインスピレーション源としている言葉だ。繁栄を象徴する薔薇と消滅を象徴する灰は両極にあり、二項対立で見られがちだが、カシミは「その間を掘り下げることが重要」と考えている。

「例えば、人間と自然との間には、もっとつながりや調和がありました。破壊の先の終末論が唱えられますが、終わりは新しい始まりでもある。そこからまた薔薇が生まれるのではないでしょうか」
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今芸術祭に参加する小川待子の《結晶と記憶:五つの山》。小川は、つくることと壊れることの両義性を内包する「うつわ」として、始原的な力を宿す作品を制作している

あいち2025に参加する小川待子の《結晶と記憶:五つの山》。小川は、つくることと壊れることの両義性を内包する「うつわ」として、始原的な力を宿す作品を制作している

その循環のためには、世界のさまざまな事象に気づく必要がある。

「世の中のことは大まかには伝えられているけれど、細かくは知らないことだらけ。あいち2025では、各地のアーティストがアートを通して届ける“声”に触れ、さまざまな体験をしてほしい」

文=鈴木奈央 書=根本充康

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