働き方

2024.05.16 13:30

キャリアもファミリーも諦めない。メディア初解禁「佐俣家の秘密」

では具体的にどんな工夫によって佐俣夫妻のファミリーキャリアは成り立っているのか。母親・父親となった後も変わらず事業にコミットすると決めたふたりが選択した方法論は、「子育てチームの拡大」だった。

夫婦だけですべてをやり切ろうとするのではなく、外の力をとことん借りる。実家が遠く、平日の夜間まで長時間のサポートを求めていた佐俣夫妻がチョイスした選択肢は「シッター」だった。保育園の送迎、食事づくり、掃除や洗濯、寝かしつけまで、平日の家事育児はほぼすべて、信頼できるシッターさんにお願いしている。

「1人目を産んだ後はしばらく仕事を離れて自分で育児をするつもりだったのですが、私が会社を不在にしている間に組織崩壊が起きてしまって。予定を切り上げて産後1カ月ほどで復帰することになり、心身共にボロボロに。早々に『これは無理だ』と判断してお世話になっていた投資家に相談したところ、『どんどん外注したほうがいい』と勧められたんです」(奈緒子)

かつて働いたPayPalやEast Venturesのシンガポール拠点で、同僚たちがごく自然にシッターと協力して子育てとキャリアの両立をかなえる姿を見ていたふたりは、すぐに肯定的に受け入れられたものの、10年前の日本では今以上に子育てを他人に任せることへの逆風が強かった。「『ここは日本だが、わが家のなかはシンガポールである』と設定して、独自のスタイルを貫くと意思決定しました」(アンリ)。

以後、同じシッターさんに2人目、3人目のサポートをお願いし、シッターさんの母親や妹、娘まで“チーム”は拡大。LINEグループには「髪切ったよ!」「おなかの調子が少し心配」など子どもたちの様子を共有する投稿があふれ、今ではすっかり家族同然の信頼関係が築かれている。

当然、コストはかかるが、それを上回る価値があると感じている。「片方の役員報酬は最大で全額を子育てに投入すると決めています。そうすれば、シッターさんに平日の育児はほぼお願いできて、私たちはビジネスに集中できる。事業も家庭もサステナブルに持続させるために必要な投資と考えました。経営にコミットできるメリットだけでなく、親以外のたくさんの大人たちからも愛情を受けて育ってくれていることがうれしいですね」(奈緒子)

子育てに関してアウトソースせずに、自分たちだけでやると決めていることは、「進学先や習い事をどうするかなど、教育に関する方針くらい」という。その方針も、普段から夫婦ふたりで会話する時間をしっかり確保してるから大きなズレは生じない。

「定期的にふたりでランチに行くし、夜にバーで語り合うことも。学校関係の面談や見学には、どちらかひとりに任せるのではなく、必ず2人で参加すると決めています。もともと価値観が近い者同士ですが、普段からよく話しているから、生き方のデザインに関する目線は合っている」(アンリ)。ゆえに、どちらも妥協することのない「2直線のファミリーキャリア」が形成されているのだ。
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文=宮本恵理子 写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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