働き方

2024.05.16 13:30

キャリアもファミリーも諦めない。メディア初解禁「佐俣家の秘密」

休日は溜まった家事に追われることなく、家族で思い切り遊ぶ。外出にはシッターファミリーが参加することもある。

子育てはプロジェクト

疲弊せずヘルシーに、子どもたちとの充実した時間を創出するのに欠かせない“ チーム ”の仕組み。佐俣家の場合はシッターという方法だったが、チームに巻き込むパートナーには親族など、さまざまな選択肢があるはずだと提案する。「子育てはプロジェクトである」──インタビュー中、ふたりは繰り返しその言葉を使った。仕事と別物として切り離すのではなく、むしろ同一線上で考えるほうが問題を解決しやすくなるのだと語る。

「感覚としては、ビジネスとは別に『ファミリー』という“ 会社”を経営している感覚に近いです。子どもが増えるごとに“ 事業部 ”が増えていって、シッターさんは現場を熟知する“ 事業責任者 ”。重要な意思決定をするのは私たちですが、それも意見を集めて合意のうえで決める。仕事でマネジメント経験がある人は、チーム体制での子育てに向いていると思います」(奈緒子)

特定の人に役割や情報が集中することが経営リスクにつながるように、子育てにおいても「属人化しない組織づくり」は重要なのだと強調する。

隙のないファミリーキャリアを築いてきたかのように見える佐俣夫妻だが、実はアンリにはある時期まで「負い目」があったという。第1子の長男が育てやすいタイプだったこともあり、次男が生まれるまではほとんど子育てに携われていなかったという反省がある。第3子妊娠後の奈緒子の体調が安定せず、上の2人の添い寝からスタート。長女が誕生すると、すべての育児タスクを引き受け、「第3子担当」が定着した。

「子育ての当事者になると、世界の見え方が激変しましたね。子どもの発熱がどれだけシビアな緊急事態なのかというリアリティもわかるから、社内のメンバーの声かけも変わったと思います。ファンド事業でダイバーシティの促進を強化しているのも、娘とのかかわりが少なからず影響していますし。結果として、経営が強くなることを実感しているので、若い男性起業家が子どもを授かった際には『絶対育児したほうがいい』と勧めています」(アンリ)。奈緒子も「私の会社も、子育てを通じて権限委譲が進んだ」と頷きつつ、「子が生まれたら育てるのは当然のこと。男女ともに同等にかかわることが、これからのスタンダードになってほしい」と提言する。

ふたりが経営する会社では、自然とそれがかないやすい環境へと向かったようだ。双方の会社で働く社員は、男女ともに育休取得を積極的に取得し、仕事の成果も十分に発揮しているという。

また、第3子が30歳になるのは50年。そのころの風景は誰も想像できないから、親が先回りして準備できることは何もないと考えている。「大切にしたいのは、いつでも自分の人生のコントロールレバーを握り続けること。子どもたちの人生も、本人が握るレバーに委ねたい。好きなことを深掘りして想像できない未来を切り拓いてほしい」(奈緒子)

「子どもたちに負けずに、親である僕らも自分の人生に夢中で向き合いたい。そんな姿をこれからも見せていきたいですね」(アンリ)


さまた・あんり◎1984年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、 East Venturesを経て2012年ANRIを設立。シードステージの投資に特化した独立系VCとしてインターネットおよびディープテック領域250社に投資実行。

さまた・なおこ◎1983年生まれ。2012年にコイニーを創業。18年にコイニーとストアーズ・ドット・ジェーピー社を経営統合し、ヘイ(現 STORES 株式会社)を設立。コイニー以前は、PayPalにてマーケティングを担当。

文=宮本恵理子 写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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