共にスタートアップ産業を盛り上げる創業経営者であり、9歳・4歳・3歳になる3児を育てる佐俣アンリ・奈緒子夫妻。乳幼児期の子育てを3人分こなしながら、パワフルに事業を成長させてきたパワーカップルとして知られる。
しかしながら、このふたりがどのようにしてビジネスと家庭の両輪を回しているのかという実態については、ベールに包まれてきた。
実は、これまで夫婦でのメディア共演はNG。今回、沈黙を破ったきっかけは、「自分たちが担うべき役割を自覚したこと」だという。「どんなときも夫婦それぞれのキャリアを途切らせることなく、子どもたちのことも全力で愛したい。何も諦めないと、私たちは決めました。『本当はもっと戦いたかった』と足を止めてしまう同世代をたくさん見てきたけれど、“諦めなくても済む仕組み”をつくれることも示したいと思いました。
もちろん誰もがうまくいくとは限らないし、私たちも日々試行錯誤中です。それでも『なんとかやっているよ』と発信することが、社会の進化のために必要だねと夫婦で話し合ったんです」(奈緒子)。「今年はふたりが40歳になる節目。昭和の夫婦モデルを経験してきた上の世代と、『男も育休取って当たり前』の下の世代の双方の価値観や背景を理解して橋渡しができる年齢になったなと感じる場面が増えてきたんです。
“時代の転換点”に立つ我々がどうファミリーキャリアを築いているのか。これまでも個別の相談には乗ってきましたが、もっと広く世間に伝えようと決めました」(アンリ)
家族を「拡張」させる
佐俣夫妻が出会ったのは学生時代。その後、それぞれに経験を積んで起業準備を始めた2010年に結婚し、12年にアンリはベンチャーキャピタルANRIを、奈緒子は事業者向け決済サービスを提供するコイニーを起業した。その2年後、第1子を妊娠したのは、奈緒子が13億円の資金調達を実施したころ。アンリもラクスル、UUUM、クラウドワークスなど立て続けに出資を決めていた時期と重なる。18年に奈緒子が経営統合による新会社ヘイ(現STORES)を設立した翌年には第2子、続けて20年に第3子誕生、その間もアンリの新ファンド設立と、経営と子育てのビッグイベントが同時期に進行していく。キャリアとファミリーの両軸を保ちながら、双方が出力を緩めない佐俣夫妻。今でこそ20・30代起業家から憧れられる存在となったが、起業準備中にはふたりとも無収入となり、家賃さえ払えなかった時期もあったとふり返って笑い合う。