働き方

2024.05.19 15:00

世界で活躍するアーティストふたりが「国際的評価」よりも大切にしたいこと

いざやってみると、ものすごく大変で、毎日何か問題が起こって、火消しに追われて……でもそれがとても楽しかったし、たった7〜8カ月でしたが自分がすごく成長できた。ピクサーのような守られた環境から飛び出してこれを毎日やったらどうなるだろう、と思ってつくったのがトンコハウスだったのですが、創設して10年たった今でも毎日火事が起こっている状態ですね(笑)。

藤井:「ザ・シルクロード・アンサンブル」では自分にとって音楽とは何かをあらためて考えさせられ、脳みそを揺さぶられました。音楽を演奏するだけではなく、音楽を通して世界に何ができるか、いろいろなバックグラウンドをもつ人たちが一緒に音楽をつくったとき、どのようなメッセージを伝えられるか、ということをやってきました。それに触発されるかたちで、私は今、新しい挑戦として、日本の現代カルチャーを通してここアメリカ西海岸でコミュニティづくりをしたい、と思っています。

10年以上温めてきた構想で、音楽だけではなく、堤さんにも協力していただいて、さまざまな文化を代表する人たちがコラボレーションし、それを観客と一緒に共有し、会話になっていく場所をイメージしています。Nippon Koboという名のプロジェクトで、今年9月に発足イベントの開催も決定しました。アメリカに住んでいると社会の分断や亀裂を強く感じます。今この社会で生きるにあたって、いかに社会間の壁を崩していくか、ということは重要で、インターネットの情報だけでは手に入らない、知らない文化をライブで知る、肌で感じるということは何物にも代えられないと思っています。

堤:僕も、かねてコミュニティというものが本当に大事になってくる時代で、自分たちにできることは何だろう、と思っているので、藤井さんの活動にとても共感し、参加しています。ひとつの文化的なつながりをきっかけに何かを学ぼう、感じようって、とても素敵なコンセプトだし、もっと増えていってもいいと思います。

AIやテクノロジーが発展して、簡単にクオリティの高い映像がつくられてしまう。技術だけで生きていける、という時代は終わっている。絵を描いて何をするか、が本当に問われている。

そこで結局最初に戻るのですが、自分の好きなことに正直になるしかないのでは、と思うんです。まず自分が誇りをもってワクワクできることをやる、そこがいちばんの原点だと思います。そして、みんなが好きなことを諦めないために「結果」ではなく「過程」に重きを置く社会になってほしい。僕はよく「旅」という言い方をします。旅を楽しみましょう。目的地についたときの楽しみよりも、旅の途中のほうが実は楽しいんだ、と。その旅自体に幸せを感じられたら、きっと何とかなるよ、と。
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構成=岩坪文子 写真=キャロリン・フォン

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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