テクノロジー

2024.05.02 15:15

新技術「インカメラVFX」が生むリアル 神戸市が2030年代の三宮を描いた理由

これに対して、今回採用した技術は「インカメラVFX」と呼ばれ、巨大な高精細のLEDの壁に3次元のCGで制作したバーチャル空間を表示して、その前に役者や小道具を置いて、1台のカメラで撮影する。こうすることで、撮影後にCGを合成するのとは異なり、自然でリアリティある映像が実現できる。

しかも、撮影しているカメラの位置が常時把握されていて、カメラ位置に連動してLEDの壁に映し出すCGも変化させていく。カメラを右に移動させると、CGとして描かれた建物は正面でなく、右側が見えるようになる。そのような3Dのバーチャルゲームで使うような技術が組み込まれているのだ。

「インカメラVFX」の大きな特色

今回の神戸市の動画撮影に使用されたのは、ソニーPCLの「清澄白河BASE」(東京都江東区)内にあるバーチャルプロダクションスタジオだ。

このなかにソニー製のCrystal LEDでつくられた高さ5.5メートル、横幅27.4メートルの壁が設置された。そこに映し出された映像は、本物と区別がつかないほどの鮮明さと明るさを持っていて、見る者を驚かせる。

このスタジオには、高輝度のLEDが装備されており、今回の映像のように日中の屋外が舞台だとしても、天候や時間に制約されずに撮影ができる。

今回制作された「KOBE 203X」と名付けられたショート動画では、映像監督を宇城秀紀が務め、主演には森ふた葉が起用された。2人とも神戸出身だ。「歩きたくなる未来」というテーマで貫かれた動画で、内容は次のようなものだ。
ギターケースを背負った18歳のミチ(森ふた葉)。雨の降りやむことがない神戸の三宮を歩いていると、突然の風に誘われ未来へ。10年後の三宮の街に降り立ったミチは、広くなった歩道をそぞろ歩きすると、たくさんの人たちが楽しんでいた……
4月17日のYouTubeでの公開に合わせて開かれた、シネ・リーブル神戸での試写会では、森ふた葉は自らが歩いた未来の空間に「あたたかい空気」を感じたと語った。スタジオでの撮影であったにもかかわらずだ。

試写会に参加した監督の宇城秀紀(中央左)と主演の森ふた葉(中央右)

試写会に参加した監督の宇城秀紀(中央左)と主演の森ふた葉(中央右)

ここに「インカメラVFX」の大きな特色を垣間見ることができる。本物と見間違えるような映像のなかに役者がいると、演技に躍動感が生まれやすいのだ。従来のグリーンバックでの無機質な空間での撮影とは一線を画しているといえよう。

人間を演じられるのは、CGでない、やはり人なのだ。またそのような映像が人の心を揺さぶるのであろう。

宇城監督が最初から決めていた方針もあった。「全部を絵画にする」というものだ。最新の技術でつくられた美しいキャンバスに、生き生きと演じる人間を描くというのは、その方針を実現する近道であったにちがいない。

これからも、この「インカメラVFX」という技術で制作された映像が、さまざまな領域で盛んに使われていくにちがいない。


本編

メイキング

文・写真=多名部重則

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