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2024.04.10 10:15

足の指でドローンを操縦 腕のない高校生が「社会を支える」とき

ドローンを空中で静止させる技術が空撮の鍵

ドローンを空中で静止させる技術が空撮の鍵

新しいテクノロジーが人間の身体機能を補う。人工感覚器が聴力や視力を高めたり、生成AIが知能の代わりを果たしたりする時代になってきた。
 
神戸市内の高校に通う宮崎美侑(みやざき・みゆう)は、生まれたときから左右の腕が肩の先までしかない。そんな彼女は、ドローン操縦士として活躍している。
 
ドローンはゲーム機で使うようなジョイスティックを左右の指先で動かして操作するのだが、彼女は手の代わりに両足の指で巧みにそれを操る。昨年11月に神戸港で開かれた海上花火をドローンによる空撮で成功したことで、彼女は注目を集めた。

足の指で器用に操作

足の指で器用に操作

もっとも高校生である宮崎が、独力でここまで到達できたわけではない。彼女を陰で支える2人の強力なサポーターの存在があった。

障がい者向けのドローン操縦教室

最初のきっかけを生んだのは、社会福祉法人「プロップ・ステーション」の代表で、障害者の就労支援をライフワークとする竹中ナミだった。彼女自身、重度障害児の母でもある。
 
30年前から竹中は、「障がいをもつ人」のことを「Challenged(チャレンジド)」と呼んできた。障がい者は米国では「the challenged」と表現されることがある。直訳すると「神さまから課題を与えられた人」という意味だ。

障がいをマイナスと考えるのでなく、障がいがあるからこそ得られる体験は、自分や社会に役立てられるという思いを込めてそう呼んでいる。
 
竹中がドローンに注目したのは、2015年に総理官邸の屋上にドローンが落下したニュースを知ったときだった。動物的な勘で、障がい者が仕事をする道具に役立てられると思ったという。
 
そこでドローン操縦を教えてくれる先生を探し、白羽の矢を立てたのが、国際ドローン協会代表の榎本幸太郎だった。榎本は日本におけるドローン操縦の第一人者で、海外での撮影も多く手掛けており、映画やCMの撮影でも引っ張りだこだという。
 
ドローンの操縦を教えられる人物はいくらでもいる。だが竹中は、障がい者でもその技術が認められ、相応の対価が得られる仕事とするためには、一流の技術を有した操縦士にならないといけないと考えた。であれば、超一流の先生に教えてもらうのがいちばんの近道だったのだ。
 
そんな竹中が榎本を口説いたセリフは、以下のようにとてもシンプルだったという。
 
「チャレンジドの人たちを、タックスペイヤー(納税者)にしたい」
 
ともすると、障がい者は社会全体で支援すべきだと考えられがちだ。ところが、彼らや彼女たちを、逆に納税者、つまり社会を支える側の人間にしたいという思いを込めた言葉だった。
 
この竹中の口説きのセリフに榎本は驚いた反面、なるほどと思ったという。なぜなら、彼自身も25歳のときに大きなバイク事故で背骨を折り、半身不随になりかけたことがあったのだ。
 
榎本は、生涯を車いすで障がい者として生活するイメージをそのときはっきりもったことがあるので、自分ではたどり着けない場所に行くことのできるドローンは、身体の限界を補う機能があると考えていたからだ。
 
2人はたちまち意気投合すると、二人三脚で障がい者向けのドローン操縦の教室を始めることになった。
左から榎本幸太郎、宮崎美侑、竹中ナミ

左から榎本幸太郎、宮崎美侑、竹中ナミ

16歳での「一等」取得は最年少記録

一方、高校生の宮崎は、小さな頃から機械が好きで、中学生のときから障がい者向けのパソコン教室に通っていた。この教室を運営していたのが竹中で、足指で器用にパソコンを扱う宮崎を見て、ドローンを操縦してみないかと誘ったのだ。
 
宮崎から即座に「やってみたい」と返答があり、彼女を含めて生徒がたった3人のドローン教室が始まった。
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文・写真=多名部重則

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