ヘルスケア

2024.05.03 18:00

『17歳のカルテ』『レインマン』など、心理学的に大きな間違いがある有名映画

そしてBPDをもつほとんどの人にとって、完全寛解は稀である。回復は早くて単純明快であることを示唆し、誤った希望とBPDに対する安易な理解をもたらすことで、現実世界で多くのBPD患者が直面する苦悩やその継続的な努力から目を背けさせてしまうリスクがこの映画にはある。

2. 『ビューティフル・マインド(A Beautiful Mind)』2001年

『ビューティフル・マインド』は、ノーベル経済学賞受賞者で統合失調症と診断された数学者、ジョン・ナッシュの半生を描いた評価の高い作品だ。映画は説得力ある内容で、ストーリーは見事に作り上げられているが、ナッシュの幻覚と妄想を統合失調症の重要な要素として扱っている。幻覚は症状の一部であることは多いが、統合失調症をもつ人すべてが同じ程度の幻覚を経験をするわけではなく、まったく経験しない人もいる。

ナッシュの鮮明で強い幻覚の描写は見事な劇的効果を生み出しているが、統合失調症による症状のすべてを表すものではない。研究によると、実際には患者にとっての主な悩みは、支離滅裂な思考、感情表出の減少、認知的な課題などであり、強度の幻覚や妄想だけではない。

さらに認知神経科学者らは、『ビューティフル・マインド』 が、精神疾患を純然たる意志の力で「克服する」という考えを美化している点も批判している。人を惹きつけ同情を誘う作品だが、この映画は重篤な精神疾患に関する不朽の神話を強化する結果になっている。天才と狂気を結びつけることで、映画はナッシュの才能が統合失調症と何らかの関係があることをほのめかし、彼の懸命な努力と熱心さを軽視している。さらに、ナッシュと妻との関係が回復に果たした役割を過度に強調することで恋愛のもつ治癒力を誇張している。
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翻訳=高橋信夫

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