最近、東京都内では、中国の少数民族系のグルメを供する店が増えているのだ。
例えば、新疆ウイグル自治区や内モンゴル自治区、吉林省延辺(えんぺん)朝鮮族自治州などの出身の人たちが営む店で、中国由来でありながら、それぞれの少数民族独自のユニークな食文化の世界が楽しめる。
グルメの主役は羊肉の串焼き
その1つでもある御徒町の延辺朝鮮料理の店「羊炭長(ようたんちょう)」(台東区上野3-28-6)で、4月上旬、東京ディープチャイナ研究会(TDC)と羊囓(ひつじかじり)協会 の共催による食事会が開かれた。90名以上の日本人が参加した食事会は大盛況だった。同じ中国東北地方出身の同胞ということで、日本の「ガチ中華」を代表する「味坊集団」の梁宝璋さんも応援にかけつけ、乾杯の音頭を取ってくれた。日本在住の中国朝鮮族のチマチョゴリを着た女性たちによる伝統的な歌や舞踊も披露されるにぎやかな集いとなった。
手元に配られたその日の料理リストから主な延辺朝鮮料理を紹介しよう。
意外な気がするかもしれないが、この地方のグルメの主役は羊肉の串焼き(羊肉串)だ。さまざまな部位を使い、クミンなど複数のスパイスを混ぜ合わせた調味料で、味に旨みがあるのが特徴だ。
キムチもいろいろあったが、エゴマやトラジ(桔梗)などで和えるのが、この地域の料理の特徴らしい。日本海産のタラを使った料理も多く、これらの料理がどれも色味が赤いのはトウガラシのためで、朝鮮半島の料理とも共通するものだ。
豚の血やもち米、香味野菜などを入れた豚の腸詰で、蒸したあとで切って食べるスンデや、モチモチとシャキシャキ感がたまらないジャガイモチヂミも延辺のご当地料理である。
締めは延辺風の冷麺が出た。酸味の少ないさっぱりしたスープで、韓国料理の冷麺ほどコシは強くないが、食べごたえはある。
その他にも、日本風に言えば、豚の天ぷらの甘酢かけである鍋包肉(グオバオロウ)や、ジャガイモやナス、ピーマンを衣で包んで揚げたあとで醤油と炒めた地三鮮(ディーサンシェン)もあった。
実はこの2品は、中国東北料理である。つまり、延辺朝鮮料理店では、朝鮮半島の料理と中国東北料理、そしてそれらがミックスした多彩な味覚の世界が体験できるのだ。
「羊炭長」のオーナーや店長、スタッフの多くは中国籍の朝鮮族だ。なんでも日本国内には帰化した人たちも含め、7万から8万人の中国朝鮮族が住んでいて、首都圏だけでも約3万人を数えるそうだ。
彼らは日常的に朝鮮語や中国語を話しているが、日本語や英語も学んでおり、語学力に優れている人たちが多い。都内の、なかでも上野周辺には、筆者の知るかぎり6軒の延辺朝鮮料理店がある。