延辺は豊かな食材に溢れている
では、延辺朝鮮族自治州(以下「延辺」と表記)とはどんな地域なのだろうか。そこは、中国吉林省の最東端に位置し、南は北朝鮮、東はロシアと国境を接している。筆者はそのどちらも国境沿いの町を訪ねたことがあるが、延辺側の国境から北朝鮮の羅先(ラソン)特別市までは車で約1時間半、また極東ロシアのウラジオストクに行くには、国際バスに乗って6時間ほどかかる。
中国の朝鮮族のみならず、韓国や北朝鮮の人たちの聖地とされるのが、中朝国境にまたがる長白山(朝鮮名「白頭山」)だ。この山には「天池」と呼ばれる美しいカルデラ湖があり、晴れた日には空の雲を映し出すほど透明だ。今年3月には、ユネスコの世界ジオパーク(地質公園)にも登録されている。
中国の主要民族である漢族とともに延辺に多く住んでいるのが朝鮮族だ。農村部を訪ねると、いまでも古い朝鮮家屋が残っている。また都市部の街のネオンにはハングルと簡体字の漢字が入り混じる。こうした民族語との併記は中国の他の少数民族エリアにも共通するものだ。
延辺は、おいしい米を産する土地として知られ、長白山のふもとで採れる朝鮮人参や豊富なキノコ類などの山の幸にも恵まれ、豊かな食材に溢れている。
中心都市である延吉の朝市を訪ねると、各種キムチやナムル、トウガラシ、テンジャン(朝鮮味噌)、朝鮮五味子、朝鮮人参、キクラゲなどの食材が所狭しと並べられている。
その豊富な食材に支えられた延辺朝鮮料理は、中朝国境を流れる図們江を隔てて南に隣接する北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の咸鏡北道の味覚をベースにしている。
延辺には、この咸鏡北道から移住した人たちが多く、食のベースもその地に由来している。だだし、近年は韓国からの投資や韓国への出稼ぎ者が増えたことで、味つけや提供のスタイルも含めて影響を受けおり、食のシーンも多様化に向かっている。
面白いのは、地図をよく見るとわかるのだが、延辺の位置する中国と北朝鮮とロシアの3つの国の国境エリアでは、唯一中国だけが海に面していない。
朝鮮半島東海岸は昔から水揚げされるタラの宝庫で、この地方の人たちは干しダラをビールのつまみにしたり、「羊炭長」の料理にもあったタラのトウガラシ和えや照り焼きをよく食べる。