なぜ良い投資家は「言語化」が上手いのか?

藤吉:個別銘柄を売るという思考は、最初からなかったんですか?

阿部:いや、僕が野村の国内の営業マンだったら、そういうやり方でトップを目指していたと思います。でもアメリカで日本株に詳しくない人たちを相手に、いきなり個別銘柄の話をしても、なかなか話をきいてもらえないだろうな、と思って、ポートフォリオ営業というスタイルをとったんです。

「素直さは大事なんですよ」

藤吉:それが当たって、セールスでトップに立つわけですが、野村に3年在籍された後、独立して投資顧問会社「ABE CAPITAL RESEARCH」を起業されています。

阿部:日本にもいずれ投資顧問会社全盛の時代が来ると考えての決断でしたが、野村の先輩からは「お前、ウォール街でのたれ死ぬぞ」と言われました(笑)。

藤吉:実際には、あのソロスから声がかかったわけですね。

阿部:とにかく有力な投資家に、ファンドマネージャーとしての自分を売り込むしかないので、自分が温めていた投資のアイデアを〝Takeover Opportunities in Japan(日本における好機を見逃すな)〟というレポートにまとめて、手紙を添えてウォール街で名の知れた投資家や投資会社に片っ端から送ったところ、ソロスが反応してくれたんです。

そのレポートは、当時の日本の鉄道会社、とくに私鉄が沿線に膨大な不動産を所有していて、その含み益と比較すると株価はだいぶ割安であることを指摘したものでした。

藤吉:そのアイデアはどうやって浮かんだんですか?

阿部:野村にいたときの顧客にフェデリティのピーター・リンチ(フィデリティインベスツメンツの伝説的ファンドマネージャー。彼が率いる「マゼラン・ファンド」の運用資産は13年間で1800万ドルから140億ドルにまで膨れ上がった)がいて、僕は彼のアナリストとものすごく親しかったんです。日本に調査に行くときは、ピーター・リンチとそのアナリストと3人で行ったりしてたんですが、彼らがことあるごとに「資産価値と株価は連動するはずなのに、日本の鉄道株はずっと低いまま。日本はおかしい」ということをずっと言うわけです。日本株のベテランである野村の先輩たちはそう言われてもピンと来なかったようですが、僕は素直なので「そうだな」と思ってたんです。

藤吉:素直さって大事ですね。

阿部:素直さは大事なんですよ(笑)。

藤吉:それが今回のテーマの言語化とも繋がっている気がします。

阿部:僕は誰かと話をしたときに、その話の内容をパッパッパッと3つぐらいのエッセンスにまとめるようにしていたのですが、意外とそれができない人も多いんだな、と後になって気付いたんです。なぜできないかというと、まず相手の話を素直に聞くということができていないからじゃないかな、と最近思うんですね。

藤吉:なるほど。そこで素直にインプットするから、アウトプットも綺麗に出来る。
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text by Hidenori Ito/ photograph by Kei Onaka

連載

市場の波をつかむ12の方法 スパークス代表・阿部修平×Forbes JAPAN 編集長・藤吉雅春

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