なぜ良い投資家は「言語化」が上手いのか?

〝What do you think? 〟

藤吉:ある企業に投資するときに、よく「その企業のファンになった」という言い方をすることがありますが、投資家にはファンという側面もあるんですね。

阿部:実際、「ファンド(Fund:投資信託)」という英語には、「ファン(Fun:楽しみ)」という単語が隠れていますしね。

一方で投資の世界では、ただ「楽しい」からというだけで投資するわけにはいきません。特に我々の仕事では「なぜ楽しいのか」を顧客に対しても言語化できないといけない。

藤吉:今の世の中で「言語化」というのは大きなテーマだと思うんです。そういう目で見ると、投資をやっている人は言語化が上手い人が多い印象があります。阿部さんはその最たるものだと思いますが、言語化の能力というのはどうやって身につけるんでしょう?

阿部:私自身は、自分は言語化が上手いと思ったことはないんですが、ひとつ他の人と違う点があるとすれば、この世界に飛び込んでわりと早い時期にジョージ・ソロスという人にイヤというほど鍛えられたというのはあります(笑)。

藤吉:1980年代半ばに阿部さんはソロスのもとで日本株を運用するファンドマネージャーを務めていました。当時、ソロスは世界的な投資家として頭角を表し始めた時期だったと思いますが、彼にはどういうことを言われていたんですか?

阿部:いつも言われたのは、まず〝Shu、You are not enough(シュウ、お前は全く不十分だ)〟ですね(笑)。で、〝But、you are the only guy I got〟、つまり「でも、俺のところにいる日本人はお前だけだから」と続くんです。これを毎回言われるんです。

藤吉:それはオフィスで言われるわけですか?

阿部:いや、いつでもどこでも。例えば日本に2人で出張して、日銀の人とミーテイングしたとしますよね。ミーティングを終えて車に乗った途端、彼は〝What do you think?(お前はどう思った?)〟と聞いてくる。ここでピント外れで曖昧なことばかり答えているとクビになる。実際、そういう人を何人も見てますから、僕は英語はあまり得意じゃなかったんですけど、必死で自分の考えを述べました。

藤吉:仮に間違ったことを言ったら、ソロスはどういう顔をするんですか?

阿部:あんまりダメとかいいとかは言わずに、黙って聞いているんですけど、たまに僕が知ったようなことを言うと、ニヤニヤしてましたね。

藤吉:ニヤニヤされちゃうんですか。

阿部:「分かってもいないクセに生意気なこと言うな」という顔ですね。で、〝You are not enough〟が飛び出す(笑)。ソロスは当時、日本株に大きくベットしていたので、僕は日本人であるというだけで重宝がられた反面、要求されるレベルも高かったんです。

ソロスと過ごしたこの時間で、僕はビジネスの世界において相手に自分の考えと知性を伝えるには、どうすればいいのかを徹底的に訓練されました。特に局面ごとに〝What do you think?〟を突き詰める思想は今、自分の会社でも大事にしていますね。
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text by Hidenori Ito/ photograph by Kei Onaka

連載

市場の波をつかむ12の方法 スパークス代表・阿部修平×Forbes JAPAN 編集長・藤吉雅春

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