鳥インフルエンザは通常、鳥類の間で感染するが、米疾病対策センター(CDC)によると、家庭で飼われている犬や猫のような哺乳類にも感染することがある。米ケンタッキー州公衆衛生局によれば、家畜が鳥インフルエンザに感染する可能性があるのは、ウイルスに感染した鳥や死んだ鳥を食べたり触れたりした場合で、家畜の中で最も感染しやすいのは猫だという。
米国では2022年以降、哺乳類に鳥インフルエンザが感染した事例が200件以上報告されている。タイ、ドイツ、ポーランド、韓国では猫に、カナダやイタリアでは犬に感染するなど、他の国々でも家畜に鳥インフルエンザが感染した事例が報告されている。犬や猫の鳥インフルエンザの症状には、発熱、倦怠(けんたい)感、食欲不振、呼吸困難、結膜炎、けいれんや震えなどの神経症状があり、死に至ることもある。
米獣医師会(AVMA)は、鳥インフルエンザがペットの犬や猫から人間に感染することもあり得るが、可能性は極めて低いとしている。
米農務省は3月25日、テキサス州とカンザス州の乳牛群から鳥インフルエンザが検出されたと発表した。その後、ミシガン州、ニューメキシコ州、アイダホ州の乳牛群も感染していることが判明した。AVMAによれば、ミネソタ州でも同月20日にヤギ1頭が鳥インフルエンザに感染したと報告されたが、これは米国で初の反すう家畜(訳注:牛、羊、ヤギなど、複数の胃を持つ家畜)への感染例だった。
テキサス州保健局は今月1日、鳥インフルエンザのH5N1型ウイルスを持つ乳牛と接触した人間が感染したと発表した。これは米国内で2例目となるH5N1型ウイルスの人間への感染例だった。最初の感染者は2022年、コロラド州で鶏から感染した。同保健局は、今回の事例によって一般市民に対する危険性が高まったわけではなく、依然低いままだと説明した。CDCによると、今回感染した患者が訴えた症状は目の充血のみで、患者は抗ウイルス薬による治療中だという。
世界保健機関(WHO)によると、鳥インフルエンザの人間への感染はまれだが、2003年1月~24年2月までに世界23カ国で887件の感染例が報告されている。うち52%が死に至っており、人間への感染は極めて危険であることが分かる。
英医学誌「臨床感染症学」に掲載された論文によると、米ニューヨークの獣医師が2016年11月、動物保護施設に収容された猫の世話をしたことで、鳥インフルエンザのH5N7型ウイルスに感染した。その猫は数日後に死んだが、検査を行ったところ、ウイルスが施設全体に広がり、他の複数の保護猫にも感染していることが判明。一方、犬などの他の動物には感染しなかった。感染した獣医師以外には、165人の職員やボランティア、180人以上の里親を含め、同施設でこれらの猫に接触した人もいたが、感染の疑いがある人はいなかった。感染した獣医師はマスクなどで顔を保護することなく、感染した猫や分泌物に長時間さらされていた。獣医師は喉の痛みや咳、筋肉痛などの軽い症状を訴えたが入院には至らず、投薬治療で回復した。
米食品医薬品局(FDA)は、人間向けの鳥インフルエンザワクチンを数種類承認した。米国にはH5N1型とH7N9型の2種類の鳥インフルエンザウイルスに対するワクチンがわずかに備蓄されているに過ぎず、もし人間の間で大流行した場合、国民全員にワクチンが行き渡るには十分ではないものとみられる。人間の間で感染が広がった場合、政府はワクチンの大量生産も計画しているが、全人口を満たす量を準備するには少なくとも半年はかかる。承認済みワクチンの一部を製造している英製薬会社セキーラスは、鳥インフルエンザの流行が宣言されてから半年以内に1億5000万本のワクチンを準備できると見込んでいる。地球上には80億人の人間がいることを考えると、ウイルスが大流行してから半年後にワクチンを接種できるのは、世界人口の2%にも満たないということになる。
(forbes.com 原文)