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2024.04.10 10:15

足の指でドローンを操縦 腕のない高校生が「社会を支える」とき

ドローンを空中で静止させる技術が空撮の鍵

宮崎の上達は早く、中学3年生であった2021年には、神戸の街の夜景を海上から撮影するほどの巧みな技術を習得していた。
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高校生になると、通常はドローンを飛ばすことのできない人がいるエリアで、しかも目視外飛行をさせることのできる、一等無人航空機操縦士という国家資格の取得を目指すことにした。
しあわせの村で練習する宮崎美侑、榎本幸太郎

しあわせの村で練習する宮崎美侑、榎本幸太郎

だが、さすがにその取得は一筋縄ではいかなかった。撮影であれば榎本がそばにいてサポートもできるが、資格取得の試験ではそうはいかない。
 
宮崎が壁に直面していると感じた榎本は、こっそり自分自身の足で一等無人航空機操縦士の試験科目の練習をした。当たり前だが、足の親指の使い方などかなり難しかったという。
 
そして、練習をしていて宮崎の集中力が切れた頃合いを見計らい、彼女の前で自分の足技でのドローン操縦をさりげなく披露したのだという。榎本は次のように言う。
 
「自分の専売特許と思っていた足での操作を、手のある僕がやっているのを見て、ライバル心に火がついたのかもしれないですね」
 
そのことがあってから、宮崎はこれまで以上に黙々と練習に励むようになると、昨年7月、見事、一等無人航空機操縦士の国家資格に合格。16歳での取得は最年少記録だった。
 
その後の10月には、神戸港の海上をいろどる花火を海側からという、これまで誰も見たことがないような映像の撮影に成功する。
昨年10月に海上花火を8K映像を撮影

昨年10月に海上花火を8K映像を撮影

当日はかなり寒い日だったが、宮崎は「操縦しているときは、幽体離脱しているみたいで、モニターしか気になりませんでした。寒さはまったく感じていません」と、その日の撮影についてまさにプロカメラマンのような言葉を残した。
 
来春には大学に進学したいという宮崎に、将来について聞くと次のような意外な答えが返ってきた。
 
「ドローンの操縦を仕事にしようとは考えていません。むしろ、機械をつくる側のメーカーで働きたいです」
 
この2月、竹中と榎本のドローン教室からは、宮崎に続く2人目の「一等」資格の合格者が出た。発達障害を持つ男子高校生だ。「一等」資格の保有者は全国で1000人に満たない難関なので、同じ教室から、しかも2人とも高校生というのは快挙にちがいない。
 
新しいテクノロジーが、人間の身体の限界を切り開いていく。そんな新たな世界にチャンスを感じられるのなら、たとえ障がいを持っていても、将来は明るく見通せるはずだ。
 
宮崎が語った「私みたいな人でもできるのだから、みんなもっと挑戦すればいいのに」という言葉が、いつまでも私の耳から離れることはなかった。

文・写真=多名部重則

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