大谷選手元通訳の賭博事件報道に見る 日本人国際弁護士の脆弱な見識

Brian van der Brug / Los Angeles Times via Getty Images

「国際弁護士」が実際に行う業務とは

しかし、こうして短期間で資格を取得した国際弁護士は、果たしてニューヨーク州やカリフォルニア州で通常の弁護士として機能する資質を持ち合わせているのだろうか? ほぼ完璧なバイリンガル人材を除くと、彼らは裁判所に出向いて訴訟に携わる能力や答弁書を自ら作成する能力は持ち合わせていない。そのような実務は現地の提携事務所の弁護士に任せて、本人たちは専ら現地事務所が作成した文書をバイリンガルのパラリーガルに翻訳させ、その内容を国内の顧客に伝え、解説することが主務となっている。そのため資格があることが最優先され、資格さえ取っていればより高額の報酬を顧客に請求できることに大半は安住しているのである。
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つまり、もともと頭脳明晰で暗記力が抜群の日本人弁護士に、最短最速で米国法曹資格を持たせるLLMと現地研修の仕組みが出来上がっていることから、米国内の実務力より資格取得が優先されるため、資格は所持しているものの、実際に米国で弁護士本来の業務を行うには経験不足であることは否めない。国内に国際エンタメ・スポーツ専門を標榜し、事業面で成功している法律事務所は複数存在するが、一様に提携する米法律事務所の専門性が高く、翻訳・編集能力に定評があり、弁護士は法人営業が巧みではあるが、自力で米国の裁判に臨む姿は見たことが無い。

米国の専門弁護士はスーパーエリート

では、今回の大谷選手に関する事件に際して登場してくる米国の弁護士たちはどのような背景を持っているのだろうか。MLBやドジャース球団、大谷が契約するマネージメント会社、さらにマスコミや米国の国税庁、FBI、国土安全保障省の全てに複数の弁護士が関与していて、刑事事件の部分を除けばその大半はメディア・エンタテイメント・スポーツの専門性を所持していると考えてほぼ間違いない。

米国の弁護士が専門知識を取得し、技量が認められるためには、上位ランキングに入っている法科大学院の専門課程を修了していることが不可欠である。米国の法科大学院は、その専門領域によって毎年、複数の査定機関によって詳細にランク付けされているため、上位校を卒業し、高名な弁護士事務所でキャリアをスタートしていなければ、王道のキャリア構築は難しい。

上位ランクの法科大学院の常連は、UCLA、ハーバード、南カリフォルニア、コロンビア、ロヨラ・マリーマウント、カリフォルニア大バークレー、ニューヨーク、スタンフォードなどで、それぞれ大学院内にエンタメとスポーツ関連の研究組織を持つ。さらに専門の査読論文を扱う研究誌も発行し、客員教授も業界トップの経営者や弁護士、検察官を務める法曹資格所有者だ。そのため生徒は最先端の実務見識を履修でき、成績優秀者には卒業前から大手有力事務所の初任ポストがオファーされる。
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スポーツ・ビジネスに特化するキャリアを目指す場合は、こうした事務所で最短でも4~5年の契約交渉や契約書作成、裁判の実務経験を得たうえで、事務所内での昇格を目指して勤務を続ける必要がある。もしくは、スポーツリーグや放送・ストリーム配信などの映像サービス企業、スポーツ用具メーカー、エージェント企業に採用され、企業弁護士としてのキャリアを昇りつめるか、ブティックと称される数十人規模の専門性の高い法律事務所に入所し、パートナーと呼ばれる共同経営者弁護士を目指すことになる。
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