残念ながら、日本人弁護士で、こうした専門性の高い3年制JDを履修した人材は、ほぼ見当たらない。同じく最初に米国でエンタメかスポーツに特化したJD課程を修了し、弁護士として活動後、日本の司法試験に合格し、両国の資格を所持している人材も希少である。
合法化が進むスポーツ賭博、今回のケースは?
今回の事件の争点について、スポーツ賭博が違法かどうかということが前提にあるが、米国では2018年に連邦最高裁が「合法とするか否かは各州の決定に委ねる」という判決を出したことで、現在では全米50州のうち40州近くで合法化されている。(ドジャースが本拠地を置くカリフォルニア州では違法。)この判決を受けて、MLBは合法スポーツ賭博の対象となることを主要プロ・スポーツリーグである、NFL、NBA、NHLと足並みを揃えて容認した。この際、MLBが選手会と締結した包括的労働協約には、スポーツ賭博を禁じている州において所属選手がスポーツ賭博に関する金銭の授受を禁じる条項が付加されている。もし違反が実証された場合は、MLBの最高責任者が当該選手に対して罰金、出場停止から永久追放にいたるまでの処罰を加えることができる。もし大谷選手自身に、賭博に興じ金銭を授受していた嫌疑がかかれば、当然ながらMLBへの弁明が必要である。さらに金銭の取引が犯罪者や犯罪組織と州を越えて行われていた可能性がある場合は、複数の連邦捜査対象者になることは否めない。
したがって「ドジャースのオーナーがFBI長官に大谷選手の潔白を嘆願すれば解決できる」などという発言は、到底、専門知識の欠如した弁護士の空想に過ぎず、改めて日米両国のエンタメ・スポーツ法に精通した国際弁護士の必要性を認識すると共に、今後の登場に期待したい。