もう一つの懸念は、紛争地域や権威主義体制下での報道には危険が伴うことです。こうした環境での取材では、ジャーナリストが危険にさらされるため、正確な現場情報を伝えることがより難しくなります。しかし、一般市民には十分な情報が絶対に必要なのです。
「これは非常に大きな課題です」とタッカー氏。「ジャーナリストを派遣できない国もあります。真実を確かめるには目撃証言に頼るしかないため、これは私たち全員の課題です。非常に憂慮すべき傾向です」。
インターニュースのブルゴール氏も、危険地帯で活動するジャーナリストへの懸念を表明し、中東で現在進行中の紛争は「ジャーナリスト保護委員会が追跡してきたジャーナリズムの歴史の中で、最も死者の多い紛争」であると指摘しました。
AIと偽情報の時代における信頼の再構築
世界経済フォーラムの白書「The Principles for the Future of Responsible Media in the Era of AI(AIの時代における責任あるメディアの未来のための原則)」は、メディアの分断化と、非合成コンテンツと見分けがつきにくい生成AIコンテンツの増加が相まって、何を信頼すべきかの判断が難しくなり、メディアは偏向している、あるいは信頼できないと考える人が増えていると指摘しています。その結果、ニュースを受け取る人々は、代替ソースからの偽情報に敏感になっているのです。ここまで見てきたように、偽情報の時代に信頼を回復し、健全な信頼のエコシステムを維持することは、政府、メディア、テクノロジー企業、市民社会の共同努力を必要とする複雑な課題になっています。真実を守るためには足並みを揃えて、メディア・リテラシーの育成、質の高い報道機関の独立性と持続可能性の強化、技術イノベーションへの開放性とAIの責任ある導入などに重点を置くべきでしょう。
現在、偽情報に対抗するあらゆる取り組みが進められています。欧州連合(EU)は、近頃、デジタルサービス法を採択しました。この法律は、オンライン上の有害なコンテンツを狙い撃ちするもので、透明性、公共空間におけるAIの使用、リスクの高いシステムなどの分野を対象とした包括的なAI規制です。
一方、世界経済フォーラムの「デジタル・セーフティ・グローバル・コアリション(Global Coalition for Digital Safety)」は、メディア・リテラシーの役割を探り、偽情報の拡散に対抗する社会全体のアプローチを育成することで、この課題に積極的に立ち向かっています。
偽情報への取り組みは、一見、困難なミッションのように思えるかもしれません。しかし、真実を守るためにはこうした集団的な努力が不可欠なのです。
(この記事は、世界経済フォーラムのAgendaから転載したものです)
連載:世界が直面する課題の解決方法
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