食&酒

2024.04.07

山中教授と語る「食の先入観」|山中伸弥教授×小山薫堂スペシャル対談(後編)

放送作家・脚本家の小山薫堂が経営する会員制ビストロ「blank」に、京都大学iPS細胞研究所名誉所長の山中伸弥さんが訪れました。スペシャル対談第12回(後編)。


小山薫堂(以下、小山): 昨夏、僕の経営している「下鴨茶寮」で「22世紀ふぐ×老舗料亭 贅沢セット」と「22世紀ふぐらーめん」を発売したんです。

山中伸弥(以下、山中): 22世紀ふぐ?

小山:ゲノム編集*によって品種改良された魚を販売しているリージョナルフィッシュという会社で、京都大学と近畿大学の共同研究成果をベースとして生まれたスタートアップです。

山中:なるほど。やはり肉付きは良くなったんですか。

小山:ええ、成長速度が通常の1.9倍で、ぷりぷりとした食感と凝縮された旨味を堪能できます。生活者にとってはまだまだ不安な要素があることも理解できるのですが、厚生労働省の安全上の届出を確認した上でトライしました。山中先生は食のゲノム編集についてどのようにお考えですか。

山中:まず、「編集」というと、人の手がかかったもののように思われがちですが、これは自然界でも普通に起きていることでもあるんですよね。

小山:というのは?

山中:古代の野生の植物というのは実が小さかったり毒があったりしたのだけど、人間が栽培するうちに遺伝子が突然変異して、実が大きくなったり食べやすくなったりしたわけです。その種子を採って栽培をすることを繰り返すうち、大きな実をつける品種が生まれた。また性質の異なる品種をかけ合わせて、良い性質をもつ品種をつくることもできた。ゲノム編集というのは、その品種改良をスピードアップする技術なんですよ。

小山:なるほど。「22世紀ふぐ」に話を戻すと、ふぐを品種改良させるのは「売り手が効率的に儲けるため」と思われがちなんですが、例えば1.9倍のスピードで大きくなるなら、約半分の飼育期間で出荷サイズまで育てられますし、同じ時間で1.3倍に育てば、たんぱく質も30%増になりますよね。食の未来を考えるとき、これは欠かせない技術ではないかと僕は思うのですが。

山中:そうですね。日本は豊かな国ですが、世界を見渡せば飢餓で苦しんでいる人々が大勢いる。しかもそういう国の人口はこれからも増加傾向にあり、いままでと同じように作物をつくっていたらまったく足りない。突然変異が起こるまで待ったり何度も交配や選別を繰り返したりするのに比べて大幅に時間を短縮できるゲノム編集という技術は、そういう人々を助けられる可能性が高いと僕も期待しています。


一般的なゲノム編集とは、酵素のはさみを使ってゲノムを構成するDNAを切断し、遺伝子を置き換える技術のこと。一方で、リージョナルフィッシュが行うゲノム編集技術は「欠失型」。遺伝子組換えではなく、狙った遺伝子をピンポイントで切ることによって、その機能を失わせる手法をとっている。この手法は外来遺伝子を導入しないため、生まれた品種は自然界に生まれる品種と同様とも言える。
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写真=金 洋秀

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年4月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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