日本にも来た!「SF×ビジネス」蜜月時代 20XX年の企業の姿はこう策戦する

共同代表の佐々木俊尚と代表の小野美由紀(撮影=藤井さおり)

新型コロナウイルス流行、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻、生成AIの台頭──。この数年だけでも、時代は激しく変化した。VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代とも言われるいま、企業は、柔軟に経済活動の形を変えながら成長していかなければならない。
 
そうしたなかで、アメリカを中心にさまざまな企業から注目を集めているのが「SFプロトタイピング」だ。これは、20XX年時点でのテクノロジーや社会を予測し、そこから逆算して企業の新規事業開発やあり方を考えていく手法のことを指す。
 
SF作家の小野美由紀は、日本でもSFプロトタイピングを広めていこうと、2021年頃から企業を対象にしたワークショップを個人で開催している。社員間の議論で生まれた未来予測や企業としての存在意義を小説にまとめ、ホームページなどに掲載。開催してきた体験会は好評で、引き合いが急増しているという。
 
より多くの案件を請け負うため、2024年1月には佐々木俊尚を共同代表に新会社「SFプロトタイピング」の設立を発表した。佐々木は、『Web3とメタバースは人間を自由にするか(2022年)』『キュレーションの時代: 「つながり」の情報革命が始まる(2011年)』など、テクノロジーと社会の関係性を書いてきたジャーナリストである。
 
しかし、当然ながら、20XX年を想像するのは容易なことではない。未来予測のコツを2人に聞いた。

2010年代、米国で「SFコンサル」が誕生

──まず、SFプロトタイピングという概念はいつ頃生まれたものなのでしょうか。
 
佐々木俊尚(以下、佐々木):2010年代半ばから、アメリカで流行り始めました。2012年に、SFを用いたコンサルティングを行う「SciFutures(サイフューチャーズ)」という会社ができたんです。数百人のSF作家と契約していて、顧客にはVISAやフォード、インテルなど有名企業もいます。日本に流れてきたのは、2020年頃。雑誌WIREDの日本版が、Sci-Fiプロトタイピング研究所を作ったり、博報堂やサイバーエージェントが取り入れ始めました。
 
──なぜいま、SF思考が求められているのでしょう?
 
佐々木:技術の進歩があまりに早すぎて、意識が追いつかなくなっているためです。自動運転に生成AI、Web3。テクノロジーが次々に生まれるなか、自社の技術で新しいものを作りたいが、何に踏み出せば良いのかわからないという悩みがあるんじゃないかな。
 
あとは、会社が自己表現の場所になってきたことも関係している気がします。長く起業家をみてきましたが、2000年前後のネットバブルの頃は、売り上げ規模を大きくしたい、お金持ちになりたいといった人が多かったのですが、2010年代から変わってきて。お金を儲けるだけでなく、サービスや製品を通じて、自分が描く未来をつくろうとする人が増えてきました。企業サイトでも、創業者たちが歩道橋で並んだり壁にもたれたり、CDのジャケットのような写真が載っていることがありますよね(笑)。そういう自己表現とSF的思考は相性が良いんだろうと思います。
 
小野美由紀(以下、小野):スタートアップでもワークショップを開催したことがあります。創業まもない会社のため、企業文化や10年後のビジョンみたいなものを社内で共有して浸透させていきたいというのが目的でした。企業はどこも、それぞれの領域の未来を考えていますが、自社だけでやると発想が広がっていきません。外部の人間が介入し、拡散的な思考をしてもらう。これが私たちの仕事です。

個人の欲望から発想する

──ただ、20XX年を想像するとなると、ありきたりな世界に止まってしまいそうな気がします。すべての仕事をAIがやるようになって、といった具合に……。
 
小野:まさにそうです。下着メーカーのワコールでは、新事業に挑戦したいということで、その可能性を探るSFプロトタイプをやったんです。最初に「2050年の身体」というテーマで発想してもらったのですが、出てきたのは、老いがなくなり、病気の心配もなくて、不老不死で幸せという、どこかの小説や映画で聞いたことのあるような世界で。
 
──ありきたりな発想を脱するにはどうするのでしょうか?
 
小野:私がワークショップで必ず言うのは「個人の欲望から発想しましょう」と。技術が進歩するときは、個人的な不満や怒り、喜びが起爆剤になります。例えばネットフリックスは、創業者がビデオテープをレンタルした際に、返却期限に間に合わず40ドルの延滞料金を支払うことに不満をもち、生まれました。
 
ワコールの事例でも、実際に「本当にあなたは不老不死が幸せ?」と問うとそうではないんです。「何歳になっても友達がいて欲しいから、年を取っても人とのコミュニケーションが円滑にできるツールがあったらいい」という答えが出てきました。
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文=露原直人 撮影=藤井さおり

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