経営・戦略

2024.04.03 09:45

日本にも来た!「SF×ビジネス」蜜月時代 20XX年の企業の姿はこう策戦する

──SFプロトタイピングで成功例はありますか?
 
小野:コンデナストが運営するSciFiプロトタイピング研究所のプロジェクトにSF作家として参加したSONYのワークショップは、綺麗に着地した事例だと思います。「2050年」「東京」「恋愛」という3つのキーワードをもとに現場社員の方に未来を想像してもらい、4人のSF作家が「WELL-BEING」「HABITAT」「SENSE」「LIFE」というテーマで小説を書くんです。そして実際に、ソニーデザインセンターの若手デザイナーが、物語に登場するガジェットや世界観のプロトタイプを作って小説と共に展示するという内容で、企業の未来を感じさせるものでしたね。


 
人間って、3つの項目があると共通点を自然に想像する習性があるらしく、よくワークショップで取り入れています。特に恋愛は人の感情が動くものなので、それを混ぜるだけで自分の人生との共通点を探し始めるわけです。

歴史は繰り返される

──佐々木さんは、さまざまな著書で未来のテクノロジーと社会のあり方を書かれています。どのように未来を想像するのでしょうか?
 
佐々木:「過去に起きたことは繰り返される」ということを前提に考えています。例えば書籍の変化。よく、紙の本がなくなり電子書籍がより浸透すると言われますが、それをどう考えるか。
 
昔は写本という技術しかなかったので、本を読もうと思っても世の中に数冊しかないコピーにありつく必要がありました。しかも修道院の図書館にだけ納められているので、わざわざそこで本の貸し出しをお願いをしなければいけなかった。それが、いまと同じような印刷技術が生まれて、多くの人が本にアクセスできるようになりました。
 
特に聖書は、教会に1冊しか置いておらず、神父しか読めません。それが印刷によって大量生産され、かつ、ラテン語ではなくみんなが読めるフランス語やドイツ語で刷られた結果、誰もが聖書を読めるようになりました。結果、宗教改革がおきたんです。閉ざされていた知が、紙の大量生産と同時に開かれたことがきっかけになってるんですよね。そう考えると、もっと多くの本に容易に出会えることを求めて、紙の本の市場は縮小し、電子書籍がより浸透するかもしれないと予測できます。


 
──形は変わりながらも、歴史が繰り返されていくということですね。
 
佐々木:そうです。Amazonのエンジニアは、自身の著書『本は死なない Amazonキンドル開発者が語る「読書の未来」』ではこんなことを書きました。「ハイパーリンクによって世界中の本がつながり合う」「電子書籍は読者や作者が集まるチャット・ルームになる」。一部の人しかアクセスできなかった知が大衆に広まったように、本自体や本を読んだ人たち同士が容易につながる世界が訪れるという未来予測です。

──SFプロトタイピングのゴールは何でしょうか?
 
小野:正解不正解はないので、最初に出てきた発想から一歩踏み込んだ内容に変わっていくのを見ると、私としては嬉しいですね。
 
佐々木:現状、アメリカのSFプロトタイピングもそうなのですが、成果物を一つつくって終わりになってしまっているんですよね。SFプロトタイピングが終わった後の効果検証やコンサルティングなども今後できればいいなと思っています。


小野美由紀◎小説家・SFプロトタイパー。“女性が性交後に男性を食べないと妊娠できない世界になったら?”を描いた恋愛SF小説『ピュア』は、早川書房のnoteで話題となり20万PV超を獲得し、2020年に単行本が刊行。執筆活動を続けながら、WIRED主催の「Sci-Fiプロトタイピング研究所」の事業に参加、ソニーやサイバーエージェントなどIT企業と協業し2050年の未来を描いた。

佐々木俊尚◎作家・ジャーナリスト。 毎日新聞社などを経て2003年に独立し、テクノロジから政治、経済、社会、ライフスタイルにいたるまで幅広く取材・執筆・発信。総務省情報通信白書編集委員。『読む力 最新スキル大全』『Web3とメタバースは人間を自由にするか』『時間とテクノロジー』『キュレーションの時代』『「当事者」の時代」など著書多数。『電子書籍の衝撃』で大川出版賞受賞。

文=露原直人 撮影=藤井さおり

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