プラスチックごみからバニラアイス? イタリアのアーティストが問題提起

田中友梨
──それでプラスチックからバニリンをつくる技術に注目されたのですね。

そうです。調べていくうちに、プラスチックの生分解について研究しているジョアンナ・サドラー博士(英エディンバラ大学)を見つけました。彼女はバクテリアを利用して、プラスチックをバニリンという食べられる状態に分解していたんです。この研究の内容は、私のやりたいこととも合致していました。

そもそも、プラスチックが生分解しにくいのは、ポリマーが必須構成成分になっているから。ポリマーは共有結合(一次結合)と呼ばれる強い結合力で結びついているのです。ただし、プラスチックは主に炭素と水素からできているので、生分解さえできれば様々なものの原料になります。

なお、プラスチックを生分解したものと、マイクロプラスチックとはまったく別物です。今回のバニリンやそれでつくったアイスクリームに、マイクロプラスチックが入っているわけではありません。

サドラー博士との出会いによって、当初フィクションのつもりだった「人間が消化すればいい」という考えが、現実になりました。

──バニリンの活用方法として、なぜアイスクリームを選んだのですか?

とても単純で、私がイタリア人だから。バニラを使ったものといえば、アイスクリームが一番に浮かんだんです。あとは、アイスクリームは世界中で親しまれているのでグローバルに訴求できる点や、“ご褒美スイーツ”という文脈でも発信しやすい点なども考慮しました。

サドラー博士の研究では、20mgのプラスチックからごく少量のバニリンができます。ギルティフレーバーズは、この技術を利用してプラスチックごみからバニリンをつくり、それをフレーバーに入れたアイスクリームです。展示の際も、溶けてしまわないように冷凍庫に入れて展示しています。
渋谷のFabCafeの展示会「crQlr Awards Exhibition: New Relationship Design」で展示された「Guilty Flavours」

──ギルティフレーバーズを通して伝えたいことは? 


私が本作で重視しているのは、プラスチック(からつくったバニリン)を人間が食べることではなく、作品の鑑賞者とのコミュニケーションです。私は、イノベーションというのは技術の進歩だけでなく、人々の考えが進歩することで起きると信じているからです。

現代社会では人口が爆発的に増え、資源が不足しています。新しい資源が必要ですが、土地もリソースも枯渇している。そんな中で、ギルティフレーバーズのアイデアがヒントになるかもしれないと思っています。ただ、断言はできません。大衆が受け入れられるかどうか、わからないから。

実は、卒業制作で発表した後、数多くのテレビや新聞で報道されたのですが、視聴者の反応はほとんどが怒りだったんです。「プラスチックそのものでつくったアイス」といったニュアンスの見出しの取られ方をしたので。怒っている人はサドラー博士の研究を理解していない人がほとんどでした。

ただ、この反応を受けて、このプロジェクト自体は成功だと思いました。なぜなら、プラスチックごみのダウンサイクルについて議論を巻き起こすことが目的だったからです。
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文=田中友梨

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