こういった視点でこれまでのシニア層向けの機器を再定義したり、新カテゴリーを産み出したりしていくことで新たな産業へ繋がると考えます。
補聴器の例に留まらず、シニア層は更に上のシニア層である両親の介護へのニーズが必要となってくる世代でもあります。少なくない両親世代の方々がいわゆる認知症と診断されるなど、介護の必要性から長年勤めた職場を離れる必要ができたりする事で経済的にも困窮してしまうケースも少なくないとされています。既に日本では介護保険などによる支援が開始され、一定の支援を提供されており、関係各位の努力と貢献には頭が下がるばかりです。しかし、ロボティックスや人工知能などの先端テクノロジーをエンジニアリングの力で実用化する事で、物理的・経済的に多くの方々を助ける事が可能になるはずです。
孤軍奮闘で終わらせない
友人・知人のソーシャルネットワークでは、介護が必要となった両親・親類の為に様々な課題と解決方法を試行錯誤している様子を伺う事ができる一方、ある意味、孤軍奮闘されている様子も垣間見えます。こういった試行錯誤で解決法を産みだす熱意と努力には敬意を払うと同時に、次代の産業になりうるアイディアが含まれている事がすくなくないと考えます。埋もれている多くの工夫を拾い上げて次代のプロダクト・サービス・インフラへ昇華させてはどうでしょうか? 日本には幸いにしてコンスーマ機器の開発者や設計者だった元エンジニアのシニア層が多く存在しており、この層の厚みは他国に比して引けを取らないどころか、競争優位な状況であると思えます。
シニア社会に置けるプロダクトは、ソフトウェアだけでも実現できず、かならず身体性への支援が必要である事から、ロボティックスのようなテクノロジーは極めて重要になってきます。そして、日本が得意とする「おもてなし」といった相手のコンテクスト(文脈)を理解した上での対話能力を加える事で、世界に比類なきシニア社会向けのプロダクト、サービス、インフラが構築できると信じています。
ただ、「人口ボーナス」時代の経験や知見を外部環境や世界経済状況が大きく変わりつつある「人口オーナス」時代に当てはめても必ずしもうまく行かないのも事実でしょう。高度経済成長を支えてきたシニア層は基本的に前例のない時代から色々なモノやコトを産み出してきた世代なので、今一度「人口オーナス」時代における必要なモノやコトを再定義してみては如何でしょうか?
シニア層のクオリティオブライフが劇的に向上し、より多くのシニア層が産業を通じて価値を生み出す側に回れば、年金を受け取る側から年金を支える側に回る事になり、シニア層の貢献で産み出された産業が将来の日本を支える産業の一つになる事で、外貨を獲得し、停滞してきた日本の経済成長を再び成長へと誘うものと考えています。