アジア

2024.03.23 09:00

植田日銀の「バターナイフ利上げ」、市場は無視し円安・株高進む

日本銀行の植田和男総裁(Getty Images)

日本銀行の植田和男総裁(Getty Images)

日本の金利がどこへ向かうのか世界の投資家が手がかりを探るなか、ひとつ言えることがあるとすればこうなるかもしれない。日本銀行にもそれはわからないと。

日銀は19日、長年にわたって市場をじらし続けてきた末に、世界で最後となっていたマイナス金利政策をついに終わらせた。マイナス0.1%としていた政策金利を0〜0.1%程度に引き上げた。植田和男総裁のチームはさらに、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール=YCC)政策も取り払った。

ところが、市場の反応はつれなかった。日銀の措置をあざ笑ったとさえ言えるかもしれない。植田の政策転換で円が急騰するのではないかという懸念をよそに、円の対ドル相場は1.5%超下落した。他方、日本株の強気派はむしろ、やや勢いづいた。理由は、この「利上げ」の意味がすでに失われているからだ。

日銀ウォッチャーのメディアが19日の決定を仰々しく報じたのは、理解できなくもない。本当に劇的なことが起こるのを17年も待っていた人たちなら、まるで金融の世界の構造が大きく変わったかのように反応してしまってもおかしくはない。

現実はというと、日銀はこれ以上信用を失わないように最低限のことをしたにすぎない。植田が2023年に日銀総裁に就任してから、世界のマーケットは日銀の量的・質的金融緩和の打ち切りに幾度となく備えていた。だが、日銀は何度もそれをためらい、先延ばしにしてきた。

その日銀も世界のマーケットに追い込まれるかたちで、ようやく金利を少しばかり調整した。日経平均株価が過去1年で約51%上昇し、労働者の賃上げ率が33年ぶりの高さになるなかで、現状維持の立場を続けるのはもはや不可能になったというわけだ。

問題はもちろん、次に何が起こるかということである。植田自身にもわからない。1つの重要な実験を終わらせようとしている日銀は、また別の重要な実験を始めようとしている。

金利をゼロ近辺に押し下げる政策を25年も続けてきた世界3位かそこらの経済大国が、金融政策の正常化にかじを切るというのは、史上初の試みだ。また、バランスシートが日本の590兆円ほどの国内総生産(GDP)を上回る規模に膨れ上がっている日銀のように、資産・負債が自国の経済規模以上に拡大した中央銀行向けのプレーブック(作戦帳)も存在しない。
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翻訳・編集=江戸伸禎

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