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2024.03.12 14:15

“沈黙は共犯” 内田舞氏が語るAI、ソーシャルジャスティス

谷本 有香
また、テクノロジーにより、何が真実で何がバーチャルなのか、境界線が曖昧になるなかでは自身の「存在(私は何者か)」をより明確に意識しておく必要が出てきそうである。ここからは内田氏が伝えようとしているソーシャルジャスティスについて伺った。

『ソーシャルジャスティス』(文藝春秋)

『ソーシャルジャスティス』(文藝春秋)

“Representation(リプリゼンテーション:あるグループを代表し、どのようにメディアに映し出されるか)”という考え方が進んでいるそうだ。これは、人種、肌、体型などの多様性を認める動きともつながる。

例えば、かつては黒人の方もストレートパーマ(リラクサー)をかけたり肌を白く見せたりすることにより「大衆が良しとしていた白人、ストレートヘア」に合わせるような動きをしていたが、現在では “Going natural movement(ありのままで行こうムーブメント)”が起きており、黒人の方が天然のカーリーヘアそのままでいるようになってきている。

大統領夫人であった時期は白人の投票者にも受け入れらるようにとストレートヘアーにしていたミシェル・オバマ氏も、夫の任期が終わってからは天然のカーリーヘアで過ごしていることもそれを象徴している。このムーブメントは消費の変化も促しており、黒人の方の天然カーリーヘア向けのトリートメントも売れるようになってきている。

今アメリカ一の影響力を持つと言われているテイラー・スイフト氏も“Representation(リプリゼンテーション)”の一例として内田氏は語る。

2016年のトランプ 氏VSヒラリー氏の大統領選挙時、ビヨンセ氏、レディー・ガガ氏など米国のセレブリティーが選挙戦に対して自分の考えを発言していた時、テイラー・スイフト氏は無言を貫いていた。共和党が強い州であるテネシー州出身の彼女は、自分の出身州のファンを裏切るような発言を避けて発言を控えていたのだった。

ただ、テネシー州のある女性共和党立候補者が中絶の中止やストーキング法の軟化を主張し、テイラー・スイフト氏の意と違うキャンペーンが目立ってきた時に、テネシー州出身の自分が発言をしないのは自分の中の正義が許さないと態度を改め発言をし始めたのだった。

彼女の心の変化を捉えたドキュメンタリーもあるのだが、家族からは発言をすることによりバッシングを受けたりするから控えて欲しいと言われても「私の決断をどうか許してほしい」と語り、自分の考えを発言し始めたという。その後、ゲイの方への誹謗中傷について問題視する歌詞の曲をヒットさせたり、フェミニストとしての発言もたくさんしていくのだが、こういった発言によって世代を超えたテイラー・スイフト・ファン(スイフティー)が生まれていると内田氏は語る。

内田氏はここまでの米国でのミシェル・オバマ氏やテイラー・スイフト氏の行動や発言をみて「自分の内にある方向性を信じて、発言し・行動するソーシャルジャスティスを貫く人を求める視聴者・消費者がたくさんいた証拠である」と語る。テイラー・スイフトは自分の心に正直に行動したのであり、マーケティングのための行動ではないのだろうが、社会を良い方向に前進させるための主張をした結果がテイラー・スイフト氏自身のマーケティングにも寄与したと分析する。
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