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2024.03.12 14:15

“沈黙は共犯” 内田舞氏が語るAI、ソーシャルジャスティス

谷本 有香
内田:「テクノロジーの恩恵は精神科医としても感じています。コロナパンデミック以降、精神科の外来診察の多くはリモート診療に移行しております。対面の良さももちろんあるのですが、オンラインの方が圧倒的に患者さんたちの診察を受けるハードルが低くなったという印象です。

今までは病院に通うだけで数時間かかっていた方とかには、スケジュールの融通が利きやすくなり、引きこもりの方にも家から診察を受けられることが受け入れられています。

医師側としても、今までは病院まで通勤しての診察しか患者さんをケアする手段がなかったのが、アメリカでは今は携帯からのZoom診察や、アプリを通して検査の結果を確認したり、患者さんへの受け答えが可能になったことで、私も家から、あるいは子どもを送り迎えした後の車だったりからでもアクセスできるようになったことで、様々な時間や移動の労力が減ったりと、ありがたい恩恵が多いと感じています。

ただし、気をつけるべき点もあります。オンライン診療はZoomなどで行うのですが、そうすると「矩形(くけい)」ディスプレイの中で起きていることしか見えません。患者の周辺にあるもの全体像など、対面診療で得られる情報がすべて把握できるわけではないので、情報に偏りが出てきてしまいます。

これは、SNSにも言えることで、TikTok, Instagram含めて、ディスプレイからの情報が全てと思い込んでしまうことは自己否定を生み出しやすくなります。

例えば、パンデミック中の中学生や高校生。リアルな学校であれば活発に活動している友達が落ち込んでいる現場に出くわすなど、楽しいものと悲しいものが全て把握できますが、ディスプレイの中だと「見せたいものしか見せない」「見たいものしか見ない」状況が生まれます。

そこに、AI補正なども簡単に入るので「友達だけキラキラしているのに、私は違う……」という自己否定を起こしやすい状況が生まれます。これは、ティーネージャーが影響を受けやすいが、大人も影響を受けます。その結果落ち込んだり、攻撃的になったりします。

米国で人気のオンラインゲームのRoblox、Fortnite では、ヘイトスピーチや攻撃的なメッセージが多いです。リアルな場所だと相手を気遣うことができるのですが、バーチャルの場だと、見えてないものがたくさんある分、見えているところだけで攻撃してしまうのです。

バーチャルはネガティブが生まれやすい場所でもあるので、テクノロジーの便利さを大切にしながら、リアルの実社会・実世界を感じ続けられる環境を作ることも大事になります。」

OpenAIが動画生成AI「Sora」をリリースし、オンライン上ではますますバーチャルとリアルの境界が溶けていく。テクノロジーの恩恵を受けつつも、リスクを把握していくためには、テクノロジーがどのようなアルゴリズムで動いているのか、完璧ではなくともある程度は理解する必要がある。
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