宇宙

2024.03.09

1000年前の天体観測機器「アストロラーベ」発見、イタリア

ヴェローナのアストロラーベはイタリアで発見されたが、スペイン南部からやってきたものだった(FEDERICA GIGANTE)

イタリアのヴェローナにある博物館の収蔵庫で、11世紀の珍しいイスラムの天体観測機器「アストロラーベ」が発見された。このアストロラーベは、これまでに発見された最古のものの1つだ。世界でもあまり知られていないこの天体観測機器は、スペイン、北アフリカ、イタリアのイスラム教徒、ユダヤ教徒、キリスト教徒によって何世紀にもわたって使用されてきたと考えられている。

今回の発見を発表したケンブリッジ大学のブログ記事によれば、アストロラーベは「世界初のスマートフォン」のようなものであり、「何百もの用途に使えるポータブルコンピューター」だったという。宇宙を2次元モデルで表現したアストロラーベを使うことで、星の位置を特定したり、時間と距離を測定したり、ホロスコープ(占星図)をつくることができた。

ヴェローナのアストロラーベ(FEDERICA GIGANTE)

ヴェローナのアストロラーベ(FEDERICA GIGANTE)

稀有なアーティファクト

この珍しいアーティファクト(人工遺物)は11世紀のものだが、特定されのはケンブリッジ大学歴史学部のフェデリカ・ギガンテ博士が、ヴェローナにあるFondazione Museo Miniscalchi-Erizzo博物館のウェブサイトにアップされていたアストロラーベの画像を見ていたときだった。

同博物館はこれを偽物であると疑っていたが「今やこれはこの博物館で最も重要な所蔵品です」とギガンテはいう。「ヴェローナのアストロラーベ」に関する彼の知見は、3月1日のNunciusに掲載されている。

刻まれた文字から見て、そのアストロラーベは11世紀のスペインでイスラム教徒が支配していたアル・アンダルス、現在アンダルシア地方として知られている地域のものと思われる。しかし、アストロラーベに書き加えられたヘブライ語の刻印は「この機器がスペインあるいは北アフリカを離れ、イタリアの離散ユダヤ人コミュニティの中で使用されていた」ことを示唆している。そこではアラビア語は理解されておらず、ヘブライ語が使われていたためだ。

アストロラーベを観察するギガンテ博士(FEDERICA GIGANTE)

アストロラーベを観察するギガンテ博士(FEDERICA GIGANTE)

分点歳差

「ヴェローナのアストロラーベ」に描かれた星々は、11世紀後半に星があった位置を示している。地球の自転軸は、コマと同じように、長い間にごくわずかだけふらつき、2万5920年ごとに同じ位置に戻ってくる。これを分点歳差と呼ぶ。つまり、北極星は現在はポラリスだが、時間とともに変わることを意味しており、その他すべての星の位置も同様に変わる。「私たちから見える星の位置は絶えず変化しています。およそ70年に1度ずつ」とギガンテはいう。

このため、アストロラーベの星の位置を分析することで、機器が作られた大まかな時期を推測することが可能になる。星は11世紀終わりごろの位置を示しているようであり、これは紀元1068年に作られた別のアストロラーベと一致している。

forbes.com 原文

翻訳=高橋信夫

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