また、日本製鉄が140億ドル(約2兆1000億円)で買収するのは、USスチールの事業を消滅させるためではなく、同社の資産と米国市場におけるかなりのシェアを手にいれるためだ。日本製鉄がかつての巨大企業に関して野心的な計画を持っていなければ、買収資金を融資する投資銀行はなく、取締役会も買収を認めないだろう。
もちろん、この買収では「かつての巨大企業」であることがネックになっている。繰り返しになるが、USスチールはかつてアップルやマイクロソフト、あるいはエヌビディアのような存在だった。だが、140億ドルで買収できるという事実は、もはやUSスチールにかつてのような競争力はないと市場が見ていることを意味する。だとすれば、米国の政治家や労働者、顧客は、USスチールをより効率的で拡大志向の経営の元に置くことになる買収を応援すべきだ。米国内の鉄鋼産業を活気あるものにしたいのであれば、USスチールの事業を現在の価値である140億ドルをはるかに上回るものにするという目標を持つ経営陣に委ねることが理にかなっている。
国家の安全保障が脅かされるだろうか。冷静に考えてほしい。外国のメーカーが販売を全面的に中止しない限り、そうしたメーカー(鉄鋼、石油、コンピュータチップを含む)のものが米国に持ち込まれないようにする方法はない。生産していれば、望むと望まざるとにかかわらず全世界と取引する。
そして、日本製鉄による買収が意味するところは米国産の鉄鋼を奪うことではなく、米国内での鉄鋼生産の強化だ。言い換えると、米国での鉄鋼生産を維持したいのであれば、日本製鉄によるUSスチールの買収を認めるべきだ。
(forbes.com 原文)