成功のカギは才能か、練習か。24歳で英卓球界トップの座を手にし、オリンピックに2回出場した英ベストセラー作家マシュー・サイドによれば、決め手は「機会・環境」だ。『才能の科学:人と組織の可能性を解放し、飛躍的に成長させる方法』(河出書房新社、山形浩生・守岡桜訳)を著したサイドに話を聞いた。
──著書のなかで、卓球選手としての成功は複数の幸運が重なったものだと分析していますね。
マシュー・サイド(以下、サイド):私が小さいころ住んでいた通りには、驚くほど多くの、優秀な若き卓球選手の家があった。何の変哲もない通りだったにもかかわらず、だ。「なぜか?」と、私は考えた。そして、出た結論は、「環境やカルチャー(文化)の賜物だ」というものだった。
その通りにあった、私たちが通っていた小学校には英国きっての名コーチがいた。近隣には、24時間使える卓球クラブもあった。自宅ガレージには卓球台があり、相手をしてくれる卓球好きの兄もいた。こうした環境のおかげで、私は自分の才能を最大限に伸ばすことができた。才能の有無に執着し、カルチャーや機会、コーチングといった重要な要素を軽視するのは誤りだ。
──「才能は過大評価されている」と書いていますね。「才能が成功と失敗を決める」という、広く行き渡った概念は正しくないと。
サイド:英国の名門大学で活躍する一流フットボール選手のなかには、(新年度が始まる)9月から年内に生まれた学生が多い。年度の初期に生まれた学生は、生まれ月の遅い学生より、年齢的に多くの練習を積む機会に恵まれてきたからだ。
だが、コーチは選手の能力を「才能」のなせる業だと誤認し、生まれ月の早い選手に、より多くのコーチングを施す。そして、さらに差がつく。これを「相対的年齢効果」という。私たちは短絡的に成功を才能に起因しがちだが、成功には複数の要素が絡み合っている。
例えば、タイガー・ウッズはゴルフ界の名選手だが、ゴルフに熱心な父親の指導を受け、赤ちゃんのころからゴルフの練習を始めるという特異な経歴をもつ。小さなころ、すでに何千時間もの練習を積んでいた。もちろん、ウッズには才能があった。だが、世界には、ゴルフクラブに触る機会さえない人々が何十万人もいる。
そう考えると、「ウッズは当代随一の名ゴルファーだ」という言い方は正しくない。彼を超えうる人々は何千人もいるが、その才能を開花させる機会に恵まれないのだ。機会の分配は出身家庭や国に左右され、実に不均等だ。