リーダーシップ

2024.03.22 14:30

ベストリーダーは「ベストラーナー(学習者)」だ

傑出性のカギは「目的性訓練」

──傑出性のカギは何でしょう?

サイド:練習・訓練の量と質だ。エキスパートになるには10年間の練習が必要だが、質も重要だ。嫌々やったり、楽な練習にフォーカスしたりしていてはダメだ。練習に臨む姿勢が肝心だ。
 
名テニスプレイヤーのロジャー・フェデラーを例に取ろう。彼は現役時代、肉体と魂を練習に捧げていた。練習を楽しんでいたのだ。こうした、内からにじみ出る意欲に突き動かされることを「内因性動機付け」という。練習に打ち込む人と、そうでない人には非常に大きな差があり、それが成功のカギを握る。一流選手は機敏にリターンを打つが、それは、相手の動きを予測することに長けているからだ。予測能力は生来のものではなく、長年にわたる練習の賜物だ。

──米心理学者の故アンダース・エリクソンが「集中的訓練」と呼ぶ、深い集中を伴う練習がカギだそうですね。あなたは書籍のなかで、それを「目的性訓練」と呼んでいます。

サイド:漫然とやっても上達しない。「目的性訓練」には集中が必要だ。アマチュアはのんびりとゴルフを楽しむが、プロは、自分が打ったボールの着地点を正確に予測する。同じ場所で同じボールを使って練習し、常にスキルを磨く。

──『才能の科学』(原著2010年)に続き、『失敗の科学』(有枝春・訳)と『多様性の科学』(後者2冊はディスカヴァー・トゥエンティワン)を出版されました。次作のテーマは?

サイド:まだ、リサーチの最中だ。とはいえ、目下、関心のあるテーマは「礼儀正しさ」だ。丁重さはいいことだが、度を超えると真意が伝わらない。練習で上達するには、フィードバックをもらって、何がまずいのかを知る必要がある。だが、丁重すぎるとフィードバックの用をなさない。
 
一方、上記3冊に共通するのは、「人間はいかにして向上できるか」という問題だ。『才能の科学』では、練習で実力や考え方を向上させる重要性を説いた。『失敗の科学』では、過ちから学んで向上することの大切さを訴えた。『多様性の科学』では、異なる見方が、より効果的なチーム・組織づくりを可能にするということを説いた。

──リーダーも才能を過大評価している?

サイド:多くの企業リーダーは、「才能のある人材を雇えば、万事うまくいく」と考えている。だが、順応性や立ち直る力、進んで学び続ける姿勢のほうが貴重だ。世界が刻々と変わるなか、「学ぶ必要はない」と考える人は危険な存在だ。
 
リーダー自身にとっても、才能より訓練がものを言う。人はリーダーになっていく。ベストリーダーは「ベストラーナー(学習者)」だ。リーダーシップとは、世界がどのように変わっていくのかを絶えず注視し、自分の能力を高め続けることだ。才能を過信して学ばず、周りに耳を傾けないリーダーは会社を破滅させる。


マシュー・サイド◎英「タイムズ」紙の第一級コラムニスト、ライター。オックスフォード大学哲学政治経済学部を首席で卒業後、卓球選手として活躍。五輪にも2度出場。著書に『失敗の科学』『多様性の科学』などがある。

インタビュー=肥田美佐子

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年3月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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