経済・社会

2024.03.06 16:45

ミュンヘン安保会議 なぜ中国は特別待遇で、日本は目立たなかったのか

王毅共産党政治局員兼外相(Photo by Peerapon Boonyakiat/SOPA Images/LightRocket via Getty Images)

ただ、それでも、主催者側は王毅氏に数々の「特権」を与えたうえ、さらに来年の出席も招請した。そこまで厚遇したのは、それだけ、中国との議論が必要だという認識があるからだろう。日本貿易振興機構(JETRO)によれば、欧州連合(EU)にとって、中国は重要な経済パートナーで、1日当たり約23億ユーロ(約3800億円)規模の貿易関係にあるという。更に、ミュンヘン会議での議論が示したように、今のNATO諸国はロシアに脅威に備えるだけで精いっぱいという状況だ。中国とは、安全保障や外交での対立を最小限に抑えて、何とか良い関係を維持したいという思惑が働いているのだろう。
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中国と欧州の関係は、日本として非常に気になるところだが、残念ながら、ミュンヘン会議で日本の存在感は全くといって良いほどなかった。昨年の会議には、林芳正外相(当時)が出席したものの、今年は上川陽子外相の姿はなかった。上川氏は直前の2月、フィジーを訪問していたが、航空機の機体トラブルで帰国が遅れ、同月13日の閣議を欠席した。ミュンヘン会議出席を見送ったのも、「国会軽視」という批判を受けないようにする配慮があったのかもしれない。結局、政治家として派遣されたのは、三宅伸吾防衛大臣政務官だった。閣僚ではないため、基調演説をさせてもらえるわけでもなく、存在感を発揮できなかった。

関係者の一人は「欧州諸国にとって日本はもちろん重要なパートナーだが、意見の食い違いがあるわけではない。日本を引き留める必要性もないから、あえて議論のパートナーに選ぶこともない」と語る。欧州はそれでもいいかもしれないが、日本は王毅氏の出席した場所で「中国を警戒せよ」と発信する貴重な機会を失った。

今や、世の中は軍事力に心理戦や情報戦などを絡めて、相手を自分の思い通りに動かす「ハイブリッド戦」全盛の時代だ。「在米日本大使館のテイラー・スウィフト異例声明、ザワザワする外交官たち」でも書いたが、日本外交において、情報分野の取り組みはかなり見劣りする。SNSによる情報発信も重要だが、こうしたリアルな場での発信の機会ももっと大切にした方が良いのではないかと思う。
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文=牧野愛博

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