ミュンヘン安保会議 なぜ中国は特別待遇で、日本は目立たなかったのか

王毅共産党政治局員兼外相(Photo by Peerapon Boonyakiat/SOPA Images/LightRocket via Getty Images)

今年も2月16日から18日にかけ、ミュンヘン安全保障会議が開かれた。防衛省ホームページによれば、1962年から毎年開かれている「欧米における安全保障会議の中で最も権威ある民間主催の国際会議の一つ」だ。今年は、ロシアがウクライナ侵攻で攻勢に出つつある状況を受けて行われた。各国はウクライナ支援を叫んだが、各国の発言を子細に眺めれば、実は「ウクライナ後」をにらんで、北大西洋条約機構(NATO)の防衛をどう強化するかという点に議論が集中した。

この会議には欧米に限らず、40カ国以上の首脳や100人以上の閣僚が出席した。当然、速やかな議事進行が求められ、議論は英語で進められた。出席者の一人は「ほとんどが、当局者や専門家が複数で出席するラウンドテーブル方式。軍事や外交の専門知識が要求され、相当ハイレベルの英語力が要求された」と語る。

例外扱いを受けた出席者も一部にいた。一人はウクライナのゼレンスキー大統領だ。単独で演説し、言語も基本的にウクライナ語を使った。ただ、質疑応答で、会場から「米国でトランプ政権が誕生したら、ウクライナに招くべきではないか」という質問が出ると、英語で即答した。「トランプ氏が来るなら、最前線に連れて行く用意がある」。このウィットの効いた問答に、会場は沸いた。

単独で演壇に登場し、なおかつ英語を使わない特権を許された人がもう一人いた。中国外交トップの王毅共産党政治局員兼外相だ。王毅氏は2月17日の演説で「中国は混乱する世界に安定をもたらす力になる」と語った。ロシアとウクライナの和平に向けた努力をあきらめない考えも強調した。王毅氏の場合、会場からの自由な質疑ではなく、司会者による代表質問という体裁を取った。おそらく、日本の国会答弁よろしく、事前に司会者から伝えられた質問に沿って作った応答要領通りに語ったのだろう。

王毅氏が「中国は混乱する世界に安定をもたらす力になる」と語ったのは、米国で来年1月にトランプ政権が誕生する可能性を巡り、緊張する欧州諸国の心情をうまくくすぐるものだったとも言える。会議出席者の一人も「欧州では、〈もしトラ〉で切り捨てられるかもしれないと緊張する国も少なくない。その隙間に入り込もうというのが、中国の魂胆だろう」と話す。
次ページ > 欧州連合(EU)にとって、中国は重要な経済パートナー

文=牧野愛博

ForbesBrandVoice

人気記事