アート

2024.03.06 13:30

国立西洋美術館、65年目の自問。批判覚悟の「現代アート展」

Forbes JAPAN編集部

遠くへの想像力、多様性への理解

田中館長によれば、昨年秋に展覧会の開催を発表してから「批判も含め、大きな反響をいただいている」のだという。新たな試みに反発はつきものだ。そうした対話でこそ、本当に残るべき芯が磨かれていく。新藤は「所蔵作品は、誰かに再解釈される“偶然性”にひらかれているべき。時に過去を裏切ることが、過去を重んじることでもある」と語る。

もちろん、現代美術の力を借りずとも、この美術館の価値は痛感している。それは例えば「距離」という視点においてであり、「特に最近は、時間的にも空間的にも近しいものにしか関心が向きにくくなっている。遠くへの想像力が弱まっている。内向きになった社会において、遠くの他者のさまざまな記憶が同居している場所に価値がある」と言う。

そんな悠久の記憶と現代アートの共演。この挑戦は、この美術館にどんな扉を開くのか。「まだ願望ですが」と断りつつ、新藤は「これまで当館を遠ざけてきた人たちに、現代アートという入り口から、予期せぬ出会いをしてほしい。また反対に、当館に馴染みのある方々にも、普段見慣れていないものを通して多様な価値観に触れてほしい」と思い描く。

アートに限らず、この社会で何かを生み出すうえで多様な価値観への理解は必須要件だ。この展覧会は、アーティストに限らず、広く新たな創造を触発する機会となるのではないだろうか。

新藤 淳
◎1982年生まれ。国立西洋美術館主任研究員。展覧会企画(共同キュレーションを含む)に「フェルディナント・ホドラー展」(2014-15年)、「No Museum,No Life?ーこれからの美術館事典」(2015年)、「クラーナハ展ー500年後の誘惑」(2016-17年)、特別展示「リヒター/クールベ」(2018-19年)など。

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文=鈴木奈央 写真=若原瑞昌

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年4月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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