ロダンを転倒させ、IKEAの家具を並べる
1月22日に開かれた記者会見で、田中館長は、本展が美術館の果たしてきたことを問うものでありながら、「所蔵作品を『原因』、現代作品を『結果』とするような安易な因果論的な物語に回収したいわけではない」と説明。新藤も、西洋の名画とイケてる現代アーティストの作品を並べて見せるような「“きれいな展覧会”ではない」と語った。また会見のトークセッションでは、出展作家の梅津庸一が「作家のラインナップ」について言及。同館初として注目される現代美術展において、草間彌生や村上隆などいわゆる著名な作家が入っていないこと、約半数が東京藝術大学の関係者で「結局藝大でないと選ばれないのか」と思わせる点などを指摘すると、新藤は、この議論のように「論客系のアーティストたちに、率直にこの美術館をどう思うのか聞いてみたかった」と根底にある想いを強調した。
では実際、展示の制作過程においてどのような声を得ているのか。
まず、「この美術館はいわゆる気鋭のアーティストが足繁く通う場所ではない」と感じたという。現代作家の多くは、西洋の名画を関係ないものとみなしがちなようだ。一方で、「向き合うと刺激を受けてくださる方もいる」と手応えも感じた。そして、印象に残った応答として、「国立西洋美術館は、日本の近代化、つまり西洋化のなかで生じた歪みを体現している。その歪みのかたちに関心がある」という小田原のどかの言葉を挙げた。
本展で小田原は、ロダンの彫刻「考える人」を横倒しにして展示する。地震が絶えない日本において、永遠普遍に建つのとは違う彫刻のあり方を問うと同時に、その「転倒」の様態に「水平社宣言」の起草者として知られる西光万吉の「思想の転向」を重ねて問題提起をする。そのために、館内に初めて掛け軸をかけるという。
写真家の鷹野隆大は、西洋の名画がもし現代の平均的な部屋に並んでいたらどう見えるか、という問いから、展示室にIKEAの家具を並べた空間をつくり、所蔵作品と自身の作品を並置する。安価な大衆向けを実現したモダニズムデザインと、装飾というかつての権威の象徴の対比はどう写るだろうか。
このほか、2016年にルーヴル美術館で“破損した状態”で発見されたクロード・モネの大作、世界文化遺産でもあるル・コルビュジエの建築、所在地である上野という場所なども題材に、展示は7つの章立てで多角的に国立西洋美術館の存在を問う。