Forbes Koreaが推薦するのは、民間衛星製造メーカー「セトレックアイ(Satrec Initiative)」CEOのキム・イウルの記事だ。推薦の理由はエンジニアのキムCEOが、セトレックアイを世界最高水準の超高解像度観測衛星技術をもつまでに成長させたことと、韓国の宇宙産業を牽引する「経営者」になったことだ。
人工衛星の核心構造は大きく3つに分かれている。衛星本体と、センサ・カメラ・レンズなどの搭載機器、受信機などの地上システムだ。この三つ全ての開発技術を保有し、自社製造も可能なのは韓国の民間企業のなかでセトレックアイだけだ。
現在、衛星市場にはフランスのエアバス、日本のNEC、イスラエルのIAI等がある。「全体的な衛星製造技術で彼らを超えることは難しい」とキムは言いながらも、光学センサなどの電子光学搭載体の開発には実力がある。人工衛星で重要なのは「三つの核心構造をひとつにまとめる技術」だとキムは言う。
設立当初より小型衛星に注力し、2014年に地球観測衛星で世界初の高解像度1m級の小型衛星の開発・打ち上げに成功。最近では高解像度30cm級の中型衛星の開発にも成功した。
海外需要にも対応している。初の輸出先はマレーシア。続いてアラブ首長国連邦(UAE)、スペイン、シンガポール、トルコへと市場拡大。政府プロジェクトとも多くかかわるが、最近は軍事目的システム等、国防関連の需要が急増している。
キムは「宇宙産業は国家戦略で、国防や安全保障にかかわる。多くの国が宇宙を第4の戦場、サイバー空間を第5の戦場ととらえている。宇宙産業の競争力が国家競争力となる時代だ」といい、セトレックアイでは衛星事業のほかに衛星画像を配信する子会社SIIS、人工知能(AI)やビッグデータ等で衛星画像を分析する子会社SIAを設立し、ソフトウェアサービスの事業多角化も進めている。
世界最高水準の民間衛星企業の誕生
韓国の人工衛星の開発史は1980年代にさかのぼる。欧州先進国や日本に比べて大幅に遅れをとっていた。短期間で効果的に宇宙技術を確保するため、1989年に国立大学の韓国科学技術院(KAIST)内に人工衛星研究センターが設立された。センター設立後、宇宙開発の実現に向けて人材育成プロジェクトが始動。選抜された学生が留学生としてイギリスやアメリカ、日本などに派遣され、KAISTの学生だったキムはイギリス・ロンドン大学に留学した。「衛星搭載装置の製造技術の習得が任務でした」と話す。
1992年、金泳三が大統領選挙に当選し、韓国は文民政権が発足した。この年、韓国は宇宙産業の黎明期を迎えた。KAISTがイギリスのサリー大学と共同開発した人工衛星「ウリビョル(私たちの星)1号」を打ち上げ、世界で22番目の人工衛星保有国となったのだ。
翌年にウリビョル2号機で国産化に成功。3号機は、高解像度のカメラを搭載し、地球観測するという挑戦的な開発を見事実現させた。このとき、KAISTの技術者だったのが、キムだ。衛星開発で技術力を進歩させてきたKAISTは政府機関である韓国航空宇宙研究院と統合する計画も浮上した。