2050年の世界・大予測の著者、「日本の強みを過小評価するな」

ヘイミシュ・マクレイ(イラストレーション=べルンド・シーフェルデッカー)

今から約30年後。一世代後の未来の人口や暮らし、テクノロジーの輪郭、そして各国の世界での立ち位置は、おぼろげながら見えてきている。英ジャーナリストのヘイミシュ・マクレイは、未来予測を知ることで各々が未来への考えをかたちづくり、失敗から学ぶことができると説く。

Forbes JAPAN2月号は、「『地球の希望』総予測」特集。戦争、気候変動、インフレなど、世界を揺るがすさまざまな事象が起きる「危機と混迷の時代」。2024年の世界と日本の経済はどうなるのか? 世界で活躍する96賢人に「今話したいキーワード」と未来の希望について聞いた。


『2050年の世界 見えない未来の考え方』(日本経済新聞出版)の著者マクレイに、経営共創基盤(IGPI) 共同経営者マネージングディレクターの塩野誠が30年後の日本の姿と我々が向かうべき方向についてインタビューした。

──およそ30年前に『2020年 地球規模経済の時代』を執筆し、今『2050年の世界』を書いた理由について教えてください。


ヘイミシュ・マクレイ(以下、マクレイ当時2020年の未来予測をして、わかったことがある。ひとつは、私たちは皆、人生設計を立てるうえで将来について何らかの予測をしているということ。どんな仕事をするか? 大学で何を学ぶのか? 大企業で働くのか、それとも政府で働くのか。私たちは予測をもとに判断している。人々が判断するための何らかの指針を与えることが予測の意義だ。前回の予測では、イギリスのEU離脱といった動きを言い当てることができ、多くの人からまたやってほしいと頼まれた。

──世界情勢は大きく変化しています。例えば、イスラエルとハマスの衝突は予測の範疇でしたか。

マクレイ:中東の不安定化は本で取り上げた「10の不安」のひとつだ。イスラエルとパレスチナ自治区間の平和的解決への道筋が見えないことは、憂慮すべき問題だ。ただし、長期的に見ると今回の衝突からポジティブな結果が出る可能性もある。3年や5年といった短期間では困難でも30年後は変わっているかもしれない。本当にひどいことが起きているときこそ真の社会的、経済的、政治的進歩の下地がつくられているときでもある。その時々のニュースから離れて、長期的な視点で物事を見る必要がある。

──本の中で、2050年には日本はインドに抜かれ世界第4位の経済大国になっており、徐々に衰退し、内向きになる道をたどるだろうとしています。では、どうやって、その軌道を変えることができるのでしょうか。日本は、高齢化が急速に進むアジアにおいて、高齢化社会のデメリットを克服する先導的なモデルとなることは可能でしょうか。

マクレイ:私が言いたいのは、日本の強みを過小評価すべきではないということだ。日本社会には素晴らしいところがたくさんあり、広く調和の取れたかたちで移行していくことができる。日本の多くの強みは、欧米にとっての目標であり、秩序が保たれていることや、ますます平均寿命が延びていることは、決して悪いことではないと思う。

必要なのは人々がもっと子どもを生みたいと思えるような少子化対策、人々が何かを達成したいと思えばそれが実現できるような会社のあり方。政府や雇用主がそういう方法を見つけるべきだ。また、高齢者が仕事でも仕事以外でももっと活躍できるような社会にすることは重要だ。

日本社会がその強みを生かして国民を幸せにし、経済の成長も支える方法はたくさんあると思う。そして最終的には、経済の成長こそが、社会的な弱者やケアが必要な人を助けるための社会保障費用を増やすことになるのだ。
次ページ > アメリカは世界のリーダーであり続ける

インタビュー=塩野 誠

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

ForbesBrandVoice

人気記事