現状認識から対話の起点へ
三宅:海外の投資家がさまざまな企業を比較して投資先を決める際に、気候関連のデータももちろん比較します。気候変動がこれだけの脅威となっている時に、きちんとリスクを把握しマネジメントできているのか。そうしたときに法律で情報開示が進んでいる国と、まったく見えない国の企業がある。見えないものに対して投資はしづらいですよね。日本のTCFDの賛同機関数は多いですが、賛同しているだけの企業もあり、実際に開示している企業が多いわけではありません。日本企業からよく聞くのは、『今できていないから開示したくない』という言葉ですが、例えば50点でも現状が50点だとわかっているかどうかでだいぶ印象が違うということは、理解しておいてほしい。
バスティン:優れた海外の企業では、今は50点だけど100点というゴールを目指す方法についての考え方も積極的に伝えていると思います。開示は「旅路」です。日本企業も自社の脱炭素へのプロセスを、開示を起点として、オープンに対話することが重要ではないでしょうか。
──情報開示の基準は、気候変動だけでなく人的資本や生物多様性、人権などさまざまな観点から毎年のようにアップデートされています。固定化した評価を得るためではなく、みんなで良い方向に進むプロセスなんですね。
三宅:開示を投資家と企業の信頼関係を築くためのツールだと思ってもらえるといいと思います。私は今後の日本経済にとって、海外からの投資をいかに呼び込むか、ということは重要な課題だと考えています。世界的に気候変動対策として大きなお金が集まっている。ではどうやって日本の企業を投資先として選んでもらうのか。これをチャンスに変えるための対話を始めていくべきでしょう。
クリスティナ・バスティン◎オックスフォード大学卒業後、フィッチ・レーティングス、ドイツ銀行、ミューズニッチなどを経て、現職。コロンビア大学サステナブル投資研究所と共同で社債の脱炭素化に向けての新しい枠組みの設立に取り組む。慶應義塾大学への留学経験があり、母親は日本人。
三宅香◎JCLP共同代表、三井住友信託銀行フェロー役員。1991年ジャスコ(現イオン)入社。2008年にクレアーズ日本代表取締役社長に就任。13年にイオンに復帰し、執行役員などを歴任。19年にJCLP共同代表就任、22年に三井住友信託銀行に入社、ESGソリューション企画推進部主管。