Forbes JAPAN2月号は、「『地球の希望』総予測」特集。戦争、気候変動、インフレなど、世界を揺るがすさまざまな事象が起きる「危機と混迷の時代」。2024年の世界と日本の経済はどうなるのか? 世界で活躍する96賢人に「今話したいキーワード」と未来の希望について聞いた。
気候変動対策は、いまや巨額のマネーを動かす原動力である。IEAは、2040年までにパリ協定の目標達成に向けて最大で約71兆ドル(約7860兆円)の投資が必要だと試算。気候変動対策を含めた、世界のESG(環境・社会・企業統治)投資額は2022年に30.3兆ドルに上り、前回の2020年と比べて全体では14%減だったが、日本は49%増の4.2兆ドルに急増した(GSIA)。
では、この巨大市場と日本企業はどのように付き合うべきなのか。
──バスティンさんは、金融機関での社債運用のキャリアが長く、特にESG投資の知見と経験が豊富だと聞きました。企業の気候変動対策のグローバルな動きについてどう見ていますか。
クリスティナ・バスティン(以下、バスティン):ここ数年で、気候変動が企業にとって大きなリスク要因だということが広く認識され、情報開示を行う企業も非常に増えてきました。気候変動対策の第一歩はまず情報開示です。2024年からこの開示の基準がさらに厳しくなってきますが、開示するためには、まず企業が正しく自社の現状認識をすること。これが大事な第一歩だと思います。
一方、気候変動対策の投資には、企業が開示する気候関連データを的確に解釈することが重要です。この点、マン・グループは豊富なデータベースとその解釈力に強みがあります。将来のネットゼロ社会への各企業の取り組みの進捗を把握するためにも気候関連データの分析力は今後ますます重要になるでしょう。
三宅香(以下、三宅):2017年に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の最終報告書が公表されたばかりのころは、日本でも「やれと言われたからやる」という意識が強かったと思います。でもそこでやり始めて、TCFDのフォーマットに沿って開示作業をしていくことで、自社の事業にとって何がリスクになるのか、その機会を洗い出していくことになった。そうして理解が深まってきました。
一連の作業を通じて、リスクの存在を知り、リスクマネジメントの重要性に気づくようになりました。それは日本だけでなく世界中の企業がそうだったと思います。また、企業のなかでもCSRなどの特定の部署だけでなく、ビジネス全体にそういう意識が染み込んできたと感じます。
──日本では22年からプライム市場でTCFDの開示を要請しています。TCFDに賛同する機関数も1470と世界一になりましたが、世界と比べて日本の開示状況についてどう見ていますか。
バスティン:ヨーロッパでは早くから任意による情報開示が浸透し、企業の自己認識を高めてきました。24年には、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)が開始されます。情報開示は、企業と投資家のコミュニケーションにおける重要なツールです。
ただし、単に良いデータを開示することではなく、開示内容を内省・分析し、企業自身にとって必要な対応やゴール設定を見直すことも大切です。また、日本企業にとっては、開示はグローバルな投資家に対して自社のビジョンを発信する良いきっかけだという認識がもっと広まると良いでしょう。