大企業に勤めることが是とされる雰囲気は以前より薄まったと感じるが、それでもできるだけ多く稼ぎ、人も事業も成長し続けることが「成功」で最善だという価値観は、変わっていないのではないだろうか。
無職なんて、とんでもない。そんなものは社会の「お荷物」で、怠け者。働かざるもの食うべからず。甘えてないで働きなさい——そんな声が聞こえてきそうだ。否、聞こえていた。
キャリアの空白は悪か? 仕事を離れるという第3の選択肢
新聞社に勤めていた私は適応障害を発症して4カ月間休職した後、退職した。仕事がなかった(つまり無職だった)期間はそれから3カ月間続いた。合わせて半年以上、仕事から離れている、「働けない私は社会的に存在価値がない」と思い詰め、早く復帰しなければと常に焦っていた。キャリアの「空白」は悪で、立ち止まらずに働き続けなければならないと考えていたのだ。
今はフリーライターとして書く仕事を続けているが、仕事を離れた期間が無駄だったとは決して思わない。むしろ、今後のキャリアや人生の方向について、じっくり考える時間になったと感じている。離れることで見える景色があったということだ。
このように、無職や休職の期間を肯定的に捉える考え方を「キャリアブレイク」という。
これに特化して書かれた初めての書籍『仕事のモヤモヤに効くキャリアブレイクという選択肢 次決めずに辞めてもうまくいく人生戦略』(KADOKAWA)が、1月24日に刊行された。著者は「キャリアブレイク研究所」代表理事の北野貴大さんだ。
パートナーの「少しのあいだ無職になってみたい」ということばからキャリアブレイクを知った北野さんは、同研究所を2022年10月に設立。以降、当事者への聞き取りや発信活動を続けている。私も同研究所のアンケート調査に協力したことがきっかけで、北野さんと出会った。
同書の狙いは、「仕事を離れるという第3の選択肢を知ってほしい」というもの。仕事で悩んだ時は同じ会社で働き続ける「現状維持」か、異動や転職といった「働く環境を変える」との2択で考えがちだ。
本書では、「キャリアブレイク」という第3の選択をした約500人の中から豊富な事例を紹介した。仕事を辞めた理由やキャリアブレイク中の過ごし方、その間のお金の問題、さらには企業の捉え方まで記されている。
「まずは、社会でこんなことが起きています、ということを知ってほしかったんです。働き方に違和感を持った人が社会から一度離れて、パワーアップして帰ってくる。そんな様子を、観察者の視点で書き上げました」と、北野さんは言う。
一体、どんなことが起きているのだろうか。聞いてみると、「キャリアブレイク」がこの社会を変える可能性が見えてきた。