サメの行動生態学を専門とするヨハン・ムリエは「大量殺処分の政策がうまくいくことはめったにない。サメの事故を巡る人々の感情をなだめるのに役立つだけだ」と批判した。ニューカレドニアの先住民族カナックの文化でもサメは神聖視されており、多くの人々が捕獲に反対している。海洋生物学者ジャンバティスト・ジュエルも、サメはカナックの人々にとって文化的に重要な存在であり、大切にすべきだと訴えている。
地元の環境保護団体EPLPが提起した訴訟で、ニューカレドニアの首都ヌメアの裁判所は昨年12月28日、組織的なサメの大量処分は「人命保護の目的に照らして不釣り合い」であるとして、当局に停止を命じた。裁判所の決定について、原告のマルティーヌ・コルネイユEPLP会長は、自らの政策が環境に及ぼす影響を軽視した「公的機関の軽率さ」を指摘するものだと歓迎。裁判所は、サメの大量処分計画の影響に関する科学的評価や、対象となるサメ種の個体数に関するデータが欠如しているとして懸念を表明し、より慎重な方法をとるよう促した。だが、今回の判決に多くの人々が満足している中、EPLPの懸念が完全に拭い去られたわけではない。というのも、判決はサメの大量処分計画を将来にわたって全面的に禁止したわけではなく、調整の余地が残されているからだ。
米フロリダ自然史博物館によると、ニューカレドニアでは近年サメによる事故が増加しており、件数では世界で13番目に多い国とされている。一方、ヌメア市役所が提供した数字や当地の報道を分析すると、捕獲された329匹のサメのうち、202匹が混獲(対象の種に交じって非対象の種も漁獲されること)によるもので、混獲されたサメの多くはレモンザメやシュモクザメなどの絶滅危惧種だった。
ニューカレドニア政府はまた、ヌメアの多くの海岸で遊泳を一時的に禁止するとともに、市内で最もにぎわう海岸として知られるベデシトロンに金属製の網を設置した。地元自治体は網の設置は効果的だと主張しているが、科学者や環境保護団体は、この網が生物多様性を脅かしていると批判している。ヌメアを拠点とする海洋生物学者バスティアン・プルスは、生態系に及ぶ影響に加え、網はサメによる攻撃の根本的な原因に対処するものではないと批判。「地元の漁業は10年以上にわたってサメに餌を与えてきたが、突然それをやめ、今では漁船が毎日何千リットルもの集魚剤を湾に流し、常にサメをおびき寄せている。サメの大量処分計画や網の設置のために多額の公的資金が投入されているが、下水道など、他にも解決しなければならない大きな問題がいくつもある」と指摘した。
無人機(ドローン)による監視やスマートドラムライン(サメを殺傷することなく海岸に近づけないようにするためのシステム)など、金属製の網に代わる方法も提案されている。それにもかかわらず、地元当局は今年さらに2カ所で網の設置を計画しており、海洋生態系への長期的な影響に対する懸念が高まっている。
(forbes.com 原文)