気候変動でサメの泳ぎ方が変わる?

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サメやエイなどの板鰓(ばんさい)類と呼ばれる軟骨魚類は、海洋脊椎動物の中で最も古く、最も多様な生物群の一つだ。これまで地球が直面した数々の絶滅危機を生き延び、恐竜をも滅ぼした大量絶滅さえ物ともしなかった。だが、ついにサメでも勝てない敵が現れたかもしれない。気候変動だ。

スウェーデン・ストックホルム大学のバレンティーナ・ディサント助教(機能形態学)は「気候変動が板鰓類に及ぼす影響は、あまり知られていない。(食物連鎖の)中位~最上位に位置する重要な捕食者群だが、気候に関連したストレス要因の影響を理解するための研究は、硬骨魚類の生理反応への気候変動の影響に関する膨大な文献と比較すると、ほとんど行われていない」と語る。

海洋では今、気候変動により海水温の上昇、海面上昇、酸性度の上昇といった深刻な変化が起きている。ディサントが海洋酸性化に特に強い関心を持ったのは、「ストレス要因への反応の種内変異を理解することが、板鰓類の個体や集団において環境変化の影響に対する脆弱(ぜいじゃく)性を左右する形質を特定するカギとなる」からだ。

気候変動はすでに始まっているため、それが異なる生物種にどれだけ深刻な影響を与えるかを科学的に検証する時間はほとんどない。そこで、急激な温暖化や酸性化に対する個体の脆弱性を左右するさまざまな特徴(生理的類型)に着目した研究が重要になる。こうした形質には、体の大きさ、化学的・物理的条件が変動した場合の局所的な適応度、成熟年齢などがあり、運動能力もその一つだ。

運動能力は多くの動物において適性を決定する基本的な役割を担っており、四肢やひれなどの形態と密接に関連している。板鰓類では、生殖、移動、捕食者の回避、小差な動きといった生命機能に影響する。ディサントの研究チームは文献を掘り下げ、海水生のサメとエイの運動に関する既存研究で得られた知見を統合することで、気候変動下におけるサメとエイの潜在的な脆弱性と強靭性を示す特徴を明らかにした

最も興味深い発見の一つは、海洋酸性化が板鰓類の骨格密度に影響を及ぼしている可能性があることだ。大気中の二酸化炭素(CO2)が海水に溶け込むことで水素イオン濃度(pH)が長期間にわたり低下する海洋酸性化は、化石燃料の燃焼や農業などの土地利用の影響で進行しており、すでにカキ、アサリ、ウニ、サンゴ、石灰質プランクトンに影響を及ぼしている。

ディサントらによれば、海中のCO2が増加すると、エイの腹びれと顎の骨格の石灰化が進む。これは、殻を持つ水生無脊椎動物で一般的に殻の石灰化が減少するのと逆の影響だ。

骨格の石灰化は、エイの浮力や運動能力に直接影響することもわかった。一方、海の温暖化によってエイの胸びれは石灰化が減少した。エイは胸びれを使って泳ぐため、将来の海洋条件下では、骨格が全体的に重くなり(海洋酸性化の影響)、胸びれの硬度が下がって(温暖化の影響)、大規模な動きができなくなる恐れがあるという。

同じ種でも個体群が異なれば、海洋酸性化や温暖化といった劣悪な環境に「事前適応」して、体の大きさが変わったり、高い運動能力や持久力を示したりする可能性があることから、気候変動に対する脆弱性を低減するためには、多様性が重要な要素の一つになり得るとディサントは結論づけている。「その結果、一部の個体は捕食者から逃れる能力が向上し、環境を探索してより好ましい生息域に移動できるかもしれない」

つまり、こういうことだ。サメがこれほど長く生き延びてこられたのには、多様性が重要な役割を果たしたことがわかっている。そして、多様性はおそらくサメがこれからも生き延びるためのカギでもある。

forbes.com 原文

編集=荻原藤緒

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