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2024.01.24 08:30

ラトビア人科学者が設立したAI創薬企業「インシリコ」の強み

ラトビア出身のザボロンコフは2014年に米国のジョンズ・ホプキンス大学のキャンパスでインシリコを設立し、2019年に香港に本社を設立した。彼によると、インシリコのAIプラットフォームは、臨床試験が可能な候補薬を20カ月で作り出すことができるという。これは、従来の手法よりも少なくとも2倍速い。このプロセスはコストも従来の方法に比べて大幅に安いというが、ザボロンコフは創薬の候補によってコストが異なるため、詳細は明らかにしなかった。

現在、インシリコはがんや線維症などの分野で31の新薬候補に取り組んでいる。その主要候補で、肺の難病である特発性肺線維症の治療薬は、米国と中国で中期の臨床試験を実施中だ。同社は、9月にナスダック上場したエクセリクシスにがん治療薬の開発と商品化の権利を売却し、前払い金8000万ドルを受領した。

香港でのIPO計画も

インシリコは、AIが設計した世界初の新薬を開発する競争に勝ち残るため、昨年6月に香港取引所に新規株式公開(IPO)を申請した。この申請は12月に失効したが、ザボロンコフはIPOを断念したわけではないという。彼は、IPOの時期について明言しなかったが、市場センチメントが弱い今はタイミングが悪いと述べた。

IPOの目論見書によると、インシリコの売上高は2022年に前年から6倍以上の3000万ドルに急増した一方、損失は2021年の1億3050万ドルから2億2200万ドルに拡大している。同社には、ウォーバーグ・ピンカスとQiming Venture Partnersのほか、中国のビリオネア、Ge Li(李革)が率いる製薬大手WuXi AppTec(無錫薬明康徳新薬開発)や、シンガポールの政府系投資会社テマセク傘下のPavilion Capitalなどが出資している。

インシリコは、大手製薬会社との提携によって収益を大きく拡大することが期待される。大手製薬会社の多くは、主力製品の特許切れに直面している。ブルームバーグのアナリストは昨年、主力製品の特許切れで安価なジェネリック医薬品が市場に出回ることで、欧米の大手製薬会社は2030年までに年間3900億ドルの収益を失う可能性があると予測している。

「大手製薬会社が自社で研究開発を行うと、膨大な時間がかかる。彼らは、成功確率が高い資産を我々から買い取ることも可能だ。我々の戦略は、高品質の前臨床資産と初期段階の臨床資産を作り出す工場となり、特許切れに直面している大手製薬会社の需要を満たすことだ」とザボロンコフは語った。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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